Encore
十数年後
大阪を出発したアナウンスがあったと同時に、弥生は読んでいたスクラップブックを閉じた。ちょうどファイルの最初の記事を読み終えたところだった。
弥生は新幹線の中にいた。今が大阪なのでちょうど道程の半分を来た計算になる。
生徒集団昏睡事件。それがスクラップブックにファイルされた最初の記事の名前。弥生にとって初めてライセンスと出会い、そしてその後の人生を決定付けた出来事。
スクラップブックは写真や手書きのメモが所々貼り付けられ、いびつに膨らんでいた。ただ最初の記事である昏睡事件の部分だけは、綺麗に文字だけが並んでいる。当時は記録を残す必要があるとは思わなかったため、すべてが終わってから記憶だけを頼りにまとめたからだった。
弥生はスクラップブックを脇に置くと、窓からの景色を眺めた。夜なので外は暗い。景色は見えず、代わりにビルや家々の明かりがきらめいていた。それらが長い尾を引いて高速で後方へと遠ざかっていく。まるで流星群の中を新幹線が突っ切っているようだった。
当時、師桐の夢の中で芒雁は言った。ライセンスは存在していい能力ではないと。
ライセンスは法律で裁けないチカラだったからだ。人智を超えた現象を引き起こすチカラだったからだ。そして何より能力者の人生を良くない方向へ捻じ曲げてしまうチカラだったからだ。
結論から言えば、芒雁は失敗していた。芒雁と師桐のライセンス能力だけを封じれば、すべてが解決すると思っていた。それは間違いだった。少なくとも弥生はそう確信している。
弥生はある調査のために新幹線でその場所へと向かっていた。その調査の先にはライセンス能力がきっと関わっているだろう。それを確認することが自分の、そして芒雁が始めたことのけじめをつけることになるだろう。
ライセンスは世界を変革し得るチカラだ。そしてその時はもうすぐそこまで迫っている。
獏の小箱(ライセンスシリーズ1) 捨 十郎 @stejulon
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