第3話 夏の暑さと最新ゲームと戯言
『なーウサギさーん』
受話器からのダルそうな声に「うぎー」と返事を返す。
『何その声』
「平均的なウサギの鳴き声」
『……ウサギに対してのかわいらしさが幻滅した』
「お前が欲しがってたバッテン口なウサギだって、気を抜くとこんな鳴き方するぞ。ぎぎー」
『やめろ。それ以上ききたくない』
お互いに黙り込むと、扇風機のモーター音だけが床を振動して響く。
傍らには冷凍室で半分凍らせたスポーツドリンクの入ったペットボトルがあり、それを数口分飲み込む。
「はぁ、ちょっと幸せ」
小さく漏らした幸福感に対して、受話器の向こうから声なき悪意が飛んできている気がした。電話を切ってやろうか。
季節はすっかり夏になっており、日中夜問わず蝉が鳴き狂っている。
『そういえば、ウサギさんってさースマホ持ってる? スマホ』
唐突な質問に対し、見えないにも関わらず首を横に振る。
「一応ガラケーは持ってるけど、スマホは持ってないし、変える気もない」
ペットボトルに額をくっつけながら怠く返答した。
『あーよかった。ウサギさんがスマホ生物だったらオレ、サテライトキャノンでウサギさんの家の周辺全部焼き掃ってるところだった』
「さらりと怖いこというな。てか、サテライトキャノン持ってるのかよ」
『持ってる。太陽光発電だなんだのときに一緒に製造して打ち上げた』
この話の世界観はどうなってるんだよ。などと心の中でツッコミを入れつつ、ペットボトルから額を放す。
「スマホといえば、こないだポ○モンGoの配信はじまったな。もしや、それがやりたくての僻みか?」
冷えすぎてジンジンしている額に手をあてつつ、受話器に質問を投げかけた。
『あーたしかにアレは面白そうだなとは思うけど、所詮はスマホゲーだし、画面を見続けて生きるってさみしい人生だと思うわけよ』
「でもある意味では三次元に二次元が近づいたってことじゃない?」
『二次元に三次元が近づいた』
「細かい訂正を入れてくれるな」
またもや暑さからくる怠さによる無言タイム。
このところ、これが多い。
「あースマホでキャッキャうふふしてるやつらなんて基本リア充なんだから、モンスター探してそのまま熱中症になって爆発すればいいんだ」
『ウサギさんにしてはマジ良いこというじゃん』
なんか褒められた。
『配信直後のツイッターのトレンドみた?』
「みたみた。全部ポ○モン」
『日本人らしいなーって思ったね』
「流行り大好きー僕たち日本ジーン」
『それな』
「あーでもさ……」
ずっとペットボトルを置いていた方が冷えすぎてきたので置く位置を変える。
「ざっと見ての情報しか知らないけど、アレって基本的に初期ポ○モンじゃん? そこは熱いよなー」
『らっらっらっいえるかな? きっみっもいえるかな?』
「なつい」
『イェーイ!オニスズメ!』
「カラオケ行きたい」
『一緒に歌う?』
「もう151なんて忘れたけどな」
『掛け算は覚えられなかったけれど、151匹は覚えてた』
「それな」
「はぁ」という溜息が温暖化を増すようにハモる。
『だけどさー、これで歩きスマホする人間が爆増するわけじゃん』
「爆増って言葉で気分が中国」
『でもそれで事故が多発してさー』
「死ぬ気なくして飛び降りたー」
『スマホ滅びないかなー』
「それは無理だろうけど、歩きスマホくらいは減るといいな……」
『「ガラケーさいこーリア充爆発しろー」』
最近ではこの会話が楽しいのか、というよりも他人が聞いたら頭のおかしなやつらの戯言でしかないだろう。だけれども、旅人としてもわたしとしてもこれは大切な時間の一つなのだろうと思う。
『ウサギさん、ゲットだぜー 伝説の技マシーンで技覚えさせまくろー そんでセンターに預けっぱなしにするんだ』
「こんなトレーナーは嫌だ。速攻で逃げ出す」
『ポ○モンにそんな機能ありませんー』
「あー任○堂はポ○モンに対して愛情や信頼度機能をつけるべきだ」
『好感度か』
「そう。それで強さが決まればいいのに」
『それだと別ゲーだし、愛なんて金の前では藻屑以下だよ。絶対好感度あげるグッズが販売されてるから。課金で』
「るせぇ!時間と手間暇かけて愛しやがれ」
『コマンド選択。ウサギさん消去。あ、間違えた。野生に返す』
「ウサギさん泣くぞ?」
『うぎーぎぎぎー』
「…………」
先ほどの考えを訂正しても良いだろうか。旅人にとってはただの暇つぶしかもしれない。
『うぎー』
【旅人とウサギ。】――猫的にくるい @bungei6kari9
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