日常のありふれた風景と思わせておいて、それを裏切る短編集。
ただ不思議なだけではなく、社会風刺や皮肉を含む物語も多く、この辺りが題名にもなっている「幻景」なのだろうと思った。
例えば、風車の町が登場する一話。主人公はその町の風車は、発電機であると思って、その町の人に話しを聞くのだが、その風車の正体を聞いて予想を外す。
また、男女のかみ合わない話しでは、ホラーの要素がある。男性の方がかつて女性と行った思い出の遊園地の話をするのだが、女性の方は全く違う記憶を持っていて、ゾクリとする。人間の印象は後から作られることもあるし、見る人によって記憶しているものに差異はある。しかしこの物語は、根本的な記憶に隔たりがあるのだ。
個人的に強烈だったのは、「爬虫類ラーメン」だった。美味いラーメンは食べてみたいが、店主の秘密に驚愕する。
この作品を拝読すると、箱の中身を感触だけで当てるというゲームを思い出す。
是非、ご一読ください。
光と影が永遠に終わることがない円環を描き続けているように。日常の裏には非日常が背中あわせにひそんで、誰かが踏んでくれるのを今か今かと待ち続けているのではないかと、こちらの小説を読んでいるとなにか薄ら寒い予感を覚えました。
普段ならば気にならないことがふと気になってしまうことは、誰にでもあることだと思います。ずっと通っていた道に、その場にあるはずもないものを見つけてしまったときのような。これまで何度も通りがかっていて気がつかなかったのか、それともいま、現れたのか。
曖昧な境界を、気づかずに踏んでしまったようでぞくりとするのだけれど、もっともっと、そちら側に歩み寄ってみたくなります。いえ、歩み寄らずにはいられなくなります。
なんとも好奇心を誘われる、素敵な小説でございます。
どの御話も情景描写が素晴らしく巧みで、不思議な風景がありありと目蓋の裏に浮かんで、実際にその場にいるようなきもちになりました。
ひとつ、読めば、あなたもきっとその不思議な世界から抜けだせなくなるはず。