日常を一歩踏み外した感覚。

 日常のありふれた風景と思わせておいて、それを裏切る短編集。
 ただ不思議なだけではなく、社会風刺や皮肉を含む物語も多く、この辺りが題名にもなっている「幻景」なのだろうと思った。
 例えば、風車の町が登場する一話。主人公はその町の風車は、発電機であると思って、その町の人に話しを聞くのだが、その風車の正体を聞いて予想を外す。 
 また、男女のかみ合わない話しでは、ホラーの要素がある。男性の方がかつて女性と行った思い出の遊園地の話をするのだが、女性の方は全く違う記憶を持っていて、ゾクリとする。人間の印象は後から作られることもあるし、見る人によって記憶しているものに差異はある。しかしこの物語は、根本的な記憶に隔たりがあるのだ。
 個人的に強烈だったのは、「爬虫類ラーメン」だった。美味いラーメンは食べてみたいが、店主の秘密に驚愕する。
 この作品を拝読すると、箱の中身を感触だけで当てるというゲームを思い出す。
 是非、ご一読ください。