第5話『喧嘩メイト』
ある日のことだ。
朝起きて支度をして寮を出る。
皆とは違う黒の制服を着て、皆とは違う方向に歩き旧校舎の教室に入った。
「あぁぁん? やんのかよォ嬢ちゃん?」
そこには朝っぱらから悪役全開の人がいた。
目つきの悪いスキンヘッド兄貴、通称ルグドア。Zクラスにべホとバホと言う子分を連れており、毎日毎日うるさいの何の。
で、それは今日も今日とて、そうだったのだが。
「何よ。雑魚に雑魚って言って何が悪いの? 何度も言うけど私はアンタをクラスメイトだなんて思ってないの。気安く話しかけないでもらえるかしら。」
プラチナブロンドの髪を揺らしそう言う。
おーおー。いつも以上にお高く止まってやがるぜ。
そう、ルグドアと対峙していたのはセラスティナだった。俺が初日話しかけて、それから何度話しかけようと無視してきた彼女だ。
構図を見るだけでも、まあ大体何が起きたのかはわかる。どうせ、何の気なしに話しかけたルグドアにセラスティナが悪態をついて、ルグドアがキレたという所だろう。
いつもはルグドアが一方的に子分のべホかバホ、またはそれ以外の男を中心にキレているが、今日の標的はセラスティナのようだ。
入学式から約二週間。あれから結構経つのによくもまぁ毎日飽きないものだ。
俺はため息をつき、静かに自分の席に座る。全く。このクラスは本当に…
ルグドアとセラスティナの立ち会いを見ているのは俺とコバルトだけ。つまり教室には六人だけしかいない。ティリアは今日研究室に入っているらしい。あの神童は全く。
ーーー他の十数人はまた今日も欠席かな。
コバルトから聞いた話だが、Zクラスは例年、待遇が悪すぎて辞める人が続出するという。
教室からは日に日に人が減っていっているし、しばらく休んでいたりする人は、もしかしたらもうこの学校から去っているかもしれない。
俺もいつかそんな日が来るのだろうか。
そんなことを思考しながら、俺はセラスティナとルグドアの喧嘩を見守る。
下手に手は出さない。巻き込まれると面倒だからだ。
「クッソもうあったまきたぜ!女だから少しは優しくしてやろう、って計らいを見せたら付け上がりやがって!テメェなんか俺の手にかかればちょいのちょいなんだよ!」
そう言ってコバルトは手を前にかざしてクロスさせた。
お、あれが出るか…?
「見てろよぉ!!必殺!紅蓮の煉獄火球!!スーパーファイアーボールっ!!!!」
兄貴の手先からポッと小さな火が出た。
「ど、どうだ!見たか!」
「………馬鹿じゃないの。」
セラスティナに一蹴されてて笑いを抑えるのが大変だった。コバルトは机に顔をつけ、肩だけを震わせている。
気持ちは分かるがせめてもう少し抑えてやれ。
と、セラスティナも対抗。
「あんたがその気なら、私もやってやるわ。火属性と風属性の本気の合体魔法を見なさい!」
そう言って、意識を集中させ始めた。
火…ってここ木造校舎なんですけど…大丈夫かな。
いや、まあルグドアもそうだったけど。
そうだったけれども、彼は違うじゃないか。
でも、セラスティナの魔法を見るのは初めてだ。
どんな感じなんだろう。少し緊張する。
俺の中では見てみたい気持ちと、やばそうっていう気持ちが入り乱れ、結局その場に居座った。
そしてーーーー
「ーーーファイアーストーム!!」
そう唱えると、突如セラスティナの足元から豪炎が沸き上がり突風が起きた。椅子が吹き飛び、ガラスを突き破って校舎の窓から外へ飛び出す。
「こ、これまずくね?!あいつ何をぶっぱなしてーーー!」
しかし勢いは止まらない。とうとう机までもが突風に包まれ教室を舞い始めた。炎と合体し、突風が炎を纏う。
「ちょっとちょっ!!これ大丈夫か?!」
ふと横を見ると、コバルトはまだ肩を震わせて、腹を抱えていた。
「お前いつまで笑ってんだよ!!!」
こんな状況でも笑っているコバルトに驚きだ。
その間にも風は強まり炎が盛り、兄貴を包み込む。
「うぎゃあああああ!!俺のファイアーボールとは比べ物にならねぇ!?!なんだこれはぁあああ!!」
いや、うぎゃああって。
でも、そうは思ったけど、ルグドアはまさにストームの渦中にいるから無理もなさそうだ。
そして、腰巾着のべホとバホはそんな兄貴を目の前に焦り気味だ。
「あ、兄貴ぃ!! 死んじゃうっスよ!こんなの!」
「そ、そうでやんすよ! 逃げた方がいいでやんす!!」
そう促す腰巾着ズ。でも、ルグドアは首を横に振り、
「ば、ばっきゃろう!! 一度受けた勝負、男が簡単に投げ出せるかってんだ!!」
とかなんとかカッコイイことを言ってるが、その間もストームの勢いは増す。
俺はいい加減にやばそうな雰囲気に声を上げた。
「セラスティナ!! 止めろ! 止めろ!!!」
セラスティナに呼びかける。本来なら一目散に逃げ出しているんだろうが、避難しようにも風が強すぎて身動きが取れない。困ったことに教室内部が渦中に呑み込まれてしまったようだ。
俺は何度もセラスティナに呼びかける、が、
「これが本物の魔法! アンタ達には絶対に使うことの出来ない本物の魔法よ! これが格の違い!私はZなんかじゃないのよ!」
すげぇテンション上がってて、まるで聞いてくれなかった。でもあんなに笑顔のセラスティナは未だかつて見たことがない。
と、そしてとうとう教室の中に火が回り始めた。ガラスも全部砕け散り、机も木っ端微塵になっている。
どうにかしたいが、魔法が使えない俺にはどうすることも出来ない。
やはり俺は無力だ。だから俺は叫んだ。
「セラスティナ!止めろ!俺ら死ぬって!」
でも声は届かない。
だが、その時だ。
「ディスペル」
誰かがそう呟いた瞬間、炎の勢いが無くなり、風が止んだ。辺りに焦げ臭い匂いが漂い、色んなところから黒い煙が立ち上る。風が収まった事で、空中を舞っていた木屑やホコリ、灰などが俺たちに降り掛かった。
俺は思わず膝をつきその場にへたりこむ。
い、生きてた。
ふとコバルトに視線を振ると、一人体についた灰やホコリを払っていた。ホントに呑気なやつだ。べホとバホ、それにルグドアも幸運な事に皆怪我はないみたいだ。ティリアがいたらヤバかったかもな…。
それにしても…
本気で死んだと思った…ていうか、魔法をかき消したのって…
「おいおいおまえら。いくら旧校舎だからって好き放題暴れ回っていいわけじゃないんだぞ?」
教室の前ドア付近にゼクト先生が立っていた。『ディスペル』なるものを唱えたのも先生か。
「全く……はあ、じゃあ授業すっから、旧倉庫から机と椅子もってこい。」
一通り騒ぎを収めた先生は疲れたようにそう言った。
そして、俺たちの机が更にボロい物へと変貌を遂げたのは言うまでもないことだった。
零\ベース ー世界を変える黒の逆襲ー @Kain_syosetsu
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