狂い女神の召喚殺人

いましん

読み飛ばされると悲しいからそこんとこ理解してヨロシク(1362文字)

天界。黄金比を正確に守った形の、真っ白な神殿。壁という壁、部屋という部屋は美しい石膏で出来ており、シミや汚れは全く無かった。ある1室を除いて。



その部屋には、地球の時間感覚にして2ヶ月程前から、1人の女神が閉じこもっていた。彼女が引きこもり始める更に少し前、自身の上司に当たる大女神によって使命を授けられた。崩壊の危機に瀕した世界を救う大仕事に、彼女は悩んだ。



天界図書室の資料を読み漁り、過去の事例と同じように、救う対象とは別の世界軸から、いわゆる『勇者』を召喚することにした。それが苦難の幕開けだったとはつゆ知らず。







彼は軽くスキップしながら学校から帰路についていた。憧れの先輩へのプロポーズに見事成功したからである。顔を赤らめて、私もです、と言われた瞬間を思い出し、何度も何度もにやけていた。まさしく人生の絶頂期。何をやっても上手くいく気がした。





瞬きをした間に彼は見知らぬ場所へ飛ばされ、また絶命した。首が床に転がり落ち、右手と左足が胴体と離れ離れになった。









彼は売れない画家だった。生きていくのに必要最低限な金を稼ぐことが出来ず、生活保護を貰いながらもなお常に貧窮していた。それでも絵を描くことを止められなかったのは、ありもしない才能を諦め切れなかったからである。



ある日、食料品を買って家に帰ると、不用意に置きっ放しにしていた1ヶ月分の生活費が消えていた。まさか空き巣が入るとは思っていなかった彼は、果てしない絶望感に陥った。安アパートの天井に紐を取りつけ、輪にして首を通し、台を蹴った。



バキッと盛大に音がして、紐を括りつけていた棒が折れ、自殺に失敗した。そこでようやく、生きることを諦めないことの価値に気付いたのだった。








その一瞬の後、彼は神殿内の赤い部屋で内臓を破裂させて死んだ。







白く艶やかだったドレスは血に染まっていたが、女神は何かに取り憑かれたように召喚を続け、止める気配を見せない。



体のパーツがバラバラになった死体、内臓が飛び散った死体、2人が合体してしまった死体、足が体を貫通した死体。それらが魔法陣の上から現れる度に、舌打ちをして死体の山の一部にした。 死屍累々の山が出来上がり、時折それを一纏めにして隅へ寄せている。



2ヶ月間失敗を繰り返し続ける女神だが、それでも自らの使命を果たそうとしていた。犠牲者は既に4万人を超えているが、その確率を乗り越えた者こそが世界を救う真の勇者となる、と考えているのだった。気が狂い始めていることに、彼女は気付いていない。






それから更に1ヶ月近く経ち、大天使が進捗状況を確認しに彼女を探した。しかし、救うべき世界にいないどころか神殿から出た形跡が無く、彼女を見た者も全くいなかった。



慌てて神殿に自ら乗り込むと、鍵のかかった部屋が1室。迷うことなく戸を開けると、中では、返り血まみれの女が立っていた。壁は真っ赤に染まり、人の骨の残骸の様なものがこびり付いていた。彼女からは天使らしさが完全に消え去り、大天使が入って来たことにも気付かず笑いながら殺戮を繰り返している。



全ての状況を察した大天使は、持てる全権限を用いて、あらゆる状況を3ヶ月前、使命を託す前に戻した。




そして、彼女に言った。




「あのさ、世界救うから魔王を召喚してくれない?」

魔王は召喚されて一瞬で絶命し、世界は救われた。

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狂い女神の召喚殺人 いましん @zunomashi

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