Electric Dance Girls.

@fransepan

プロローグ

プロローグ

2016年5月、桜も緑一色に染まり、待ち行く人々の衣服も替わり始めたころ。彼女は緑なんてあるはずのない行きつけのゲームセンターに向かっていた。いつものビルに入り、レストランになど目もくれずエスカレーターを駆け上がる。真っ黒な床、壁に眩しいライト。明らかに目に悪そうなその店の中に入っていく。店に入ると、彼女は洗濯機のような筐体の前に立ち、おもむろに財布と手袋を取り出すと、100円とカードを取り出し、洗濯機のような何かに向き合う。とても滑稽に見えるだろうが、彼女の唯一といっても過言ではない趣味だった。それどころか、アイデンティティの一部といっても過言ではない。彼女は、空白だった。


翌日。彼女はもう慣れた教室に入る。私は一人で自分の好きなように過ごすから友人なんていない方がいい、と自分に言い聞かせながら席に座り、スマートフォンで奇妙な洗濯機から流れてきた音楽を聴く。脳内ではスマートに、かっこよくノーツを捌く自分の姿が繰り返し映し出される。周りから雑音が聞こえてきたから音量を上げる。これが自分を守る精一杯の術。いたって単純なことである。「高校デビュー失敗」。コミカルな字面ではあるが、彼女にとって、それは1年間の空白を意味していた。


あなたの学校には教室の端でスマートフォンをひたすら弄り倒している人がいる、もしくはいただろうか。簡単に言うと「彼女」のことであるのだが。もし居たとして、何の感情も持たないモンスターに見えただろうか。ところが残念、彼女は感情を持っている。彼女は悲しいのだ。そして、とても寂しいのだ。彼女は無意識にこの日々に慣れることに必死になっていた。しかしそれはとても難しいことだった。

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