龍宮寺にて

作久

オッサンミーツガールをボーイがリッスン

「坊主、おう、坊主。お前何してんだ。」

 少年は祇園の交差点を海へ行った辺りの寺社仏閣が立ち並ぶ地域で一人のおっちゃんに呼び止められた。

「地域にある昔の奇妙な話を集めてるんです。無くなったらもったいないでしょう。」

「おー。そうか。珍しい事してんな。じゃ、お兄さんが一つ不思議な事を話してやろう。俺らがいるここ、この御堂な。ここに祀られてるの何か知ってっか?」

「そういうのを知らないから調べてるんですよ。おじさん。」

 少年は呆れた様に無精ひげのおっさんを眺める。


「はは、そっか。そだよな。ここ、龍宮寺。創建当時は浮見堂っていってな。ここには流れ着いた人魚が祀られてんだよ。国に良い事が起きる前触れだから祀ろうってな」

「人魚!?」

不思議な話でもよくある話。そんなものが近くにあるとは少年は思わなかった。

「おー。食いついたね!しかも伝説上で81間。おおよそ150メートルくらいの人魚が埋められたらしいんだわな。これが!」

「ちょ!150って海で一番大きな生き物でもシロナガスクジラで30メートルですよ!」

「よく知ってんなぁ。坊主。そう、そうなんだよ。でもそういう記録があるんだわな。」



「でだ、お兄さんここでちょっと不思議な目にあってな。それを今から話しちゃるから耳ん穴ばかっぽじってよー聞け。ちょっと前にな。ここで女の子にあったんだ…

それは俺より大きくて、すっごい背丈のあるセーラー服着た女の子でな。山門に腰かけてぼーっとしてた俺を押しつぶさんばかりに背中に飛びついてきた。いきなりだぞ。


そして、

「ねぇ、街案内してよ!」って言ってきたんだ。

「そんなの、そこらの案内板見たらいいだろ。今は観光観光でそこら中にいろんな言葉で看板立てまくってんだから。スマホもあるだろ。」

「あたしそんなの持ってない。」

「はぁ?」

「それに、言葉の意味もよくわからんから案内してよ。いいでしょー。」女の子はぐいぐいとガブリ寄ってくる

「あぁもう!いつまでも抱き着いてんじゃないよ!とっとと離れろ!」

 此処であんちゃん最初の失敗。ぐいぐい押し付けてくる当ててんのよに負けてなぁ。案内しだしたのがいけなかったんだわな。

「わかったよ。じゃぁ、真正面にある東長寺に行くか?あそこ福岡大仏だか博多大仏だか言う木造大仏があるぞ。日本最大級らしい。後、五重塔も。」

「そんな近所いつでも行けるじゃない。私、街がどうなってるか眺めたい!」

「街を眺めたいか…。じゃぁタワー登るか?」

「タワー?」

「ああ、ここの近くにタワーがあるんだ。ちょっと歩くけどな。」


 二人してこっから海の方に歩いて、ベイサイドプレイスにある博多ポートタワーまで行ったんだよ。ま、ちょっとしたデートだな。実際うれしかったよ。

「ったっかぁあああい!」

「そんな背をそらすとコケるぞ。」

「でも、これくらいしないと無理!上見えない。五重塔より高ーい!」

「そりゃーなー。70メートルくらいあるからなー。」

「それ何間。」

「あー。おおよそ40間くらいか?」

「よっしゃー勝った!」女の子はぐっと手を突き上げ勝鬨を上げた。

「何と勝負してんだ。さ、登るぞ。」

「へぇ。こんな吊り篭があるんだ。」

「これじゃねぇと上がれねぇ。」

「おー。すっごい。遠くまで見えてるねー。」

「ここはほかの建物より高いからな。空港があるせいでそうなってる。」

「そっかー。街、繁栄してる。よかった。」そう言ってぐるりと一周した彼女の顔は優しかった。

「満足したか?」

「うん。なんか、安心した。」にっこり満面の笑みを見せてくれてあれはうれしかったなぁ。

「じゃ、もういっか。」

「そしたら、お腹空いた。」

「じゃ、あれ食おう。むっちゃん万十。」

「なにそれ?」

「ここまで来た道の途中で売ってるたい焼きみたいな軽食だよ。うっまいぞー。」


「ホント、おいしい。この黄色いタレがすごくいい。」

「マヨネーズな。ここのハムエッグはうまい。」

「あっ痛っ!」

「ん?どかしたか?」

「唇噛んじゃった。いったぁ。」

「はは。慌てて食うからだ。」

「さって、ここでいいのか?送るの。」で、女の子とあった龍宮寺に戻ってきて、

「うん。ありがと。」と言った彼女はマヨった口を軽く口に合わせて

「じゃぁね!」というと御堂を開けもせず中にすぅっと消えていった。


「ってお話だ。どうだ?聞いたことないだろ?でも、あの時、最後別れるときにランナウェイでファーストを奪われたのがおっちゃん最大のミスでなぁ。まぁ、別にいいんだけどさ。」

おっちゃんは無精ひげの顎に手をつき遠いいつかを見るような目で話をつづけている



「おっまったぁせぇええ!!ぇええいいぁ!」

 時想う様なおっちゃんの背中にセーラー服の女がとびかかり包み隠すようにのしかかる!

「っっつあああった!だぁあああ!」

おっちゃんは慣れたものとばかりにベリっと女の子を引きはがして投げ捨てる。

  飛びついた女は一目で、即に、あきらかに、男以上に背が高いのがわかる。感覚が狂うほどでかい。自分が子供のように感じるほど。

「っと。坊主、すまねぇな。ちょっと前の映画で言う精霊ハ顕現レ給ヘリってやつだ。じゃぁな!」

「おめぇおせぇよ。」ポンと女の子の脇腹を軽く叩いておちょくる。

「君が早いんだって。」女の子は乱れた長い黒髪を整えながら口をとがらせぶーと言う。

「そっか?まぁいいや。今日はどこ行くんだ?」

「福岡タワー!」

「お前あれ4代前の初代ミラーセイルから全部昇ってんだろ。」

「今のはまだ上ってないの!」

「そうだっけか?」

「そう!」

「そっか。じゃぁな、坊主。勉強頑張れよ!」


そう言って二人は雑踏へ・・・消えれなかった。それほどに女の子は馬鹿でかかった。


「初代からっって…。えぇ…?」


 初代福岡タワーは全面ハーフミラーの三角形のタワー。百道浜によかトピアに合わせて建てられた234メートルの福岡市内最高の高さを誇った電波塔だったと記録にはある。それに上ったことがあるなんて…。

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龍宮寺にて 作久 @sakuhisa

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