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《ルビを入力…》よく寝たぁ。
携帯の画面を眺めると時刻は夜の18時。
うん、寝すぎだね。
せっかくの休日がすっげえ勿体無い。
「さて…残りの時間は――」
あれ?
見覚えのある情景と聞き覚えのある野太い声。
立ち上がった足元には服が散らばっている。
「あー…デジャヴ」
またこいつになってるわ。
てか何?あの場限りの夢じゃなかったわけ?
相も変わらず散らかるカップ麺の空達が無情にも現状を伝えている。
「てことは…」
スマホの日付に目をやる。
『10/14』
ですよねー。やっぱり一日経ってる。
鏡を見てみた。
よし、吐き気がするぐらいのイケメン。
今回も頬を抓ってみた。
痛い。夢じゃない。
とりあえず壁に手をつき、溜息を吐いてみる。
「夢じゃないのおおお!!?」
「佐伯さあああん!!!」
どうやら夢じゃないようだった。
てかおばはんは何なの?怒鳴るの待機してるの?
◇◇◇◇
やぁ、僕佐伯。
趣味はカップ麺を食べて床に散らばらせる事さ。
朝起きたら別の人格が僕に乗り移ってたよ、てへ。
なんて冗談言ってる場合じゃないって!
そういえば彼の名前を私は知らない。
テーブルの上にあった財布を手にとり、中身を開く。
折りたたみ型のいかにも男らしい財布だった。
免許証…あった。
『
健司…か。
そりゃ普通の名前だわあ。
とりあえずこの間の目が醒める方法を整理してみる事にした。
確か私の自宅にいって…ドアノブに手をかけた瞬間に倒れたんだったな。
となると、私と彼は出会ったらいけない…て事?
それは理不尽すぎないか?
会わないと何もわからないままだと思うのだけれど。
「――――」
思い出したようにスマホの画面を眺める。
ロックを解除してホーム画面に戻してみた。
ああ…やっぱり夢じゃなかったんだな。
画面に無情にも映る文字に私は現実であると理解した。
『幸せになりたければ、この人の人生を台無しにしてください』
いつのまに出たのか。
前回とひとつも変わらない写真とこの文字。
既に二回目となるこの画面であるが、より一層意味がわからない。
私にどうしろと言ってるのだろうか?
まずこの人誰ですか。
SNSを開き、とりあえず写真の人の名前をチェックしておく。
「
うん、やっぱり知らない人だ。
確か一週間前ぐらいに私にフレンド申請してきた人だっけ?
とりあえずなんでもかんでも許可する私の癖がこんなところで仇になるとは…
いまいち情報が整理できていない私は、とりあえず家を出る事にした。
本当のところ今はどんな些細な情報でも欲しいところであった。
その為には、まず入れ替わっている彼の事が知りたいところだけど…
正直駄女子の私でもあの部屋を探し回るなんてできないわ。
なんかGいっぱい出てきそうだし。
てかそろそろ冬なのにまだ出てくるのね彼ら。
相も変わらず黒い服を着てから外に出かける私、基佐伯。
10月の半ばに差し掛かってきた夜はめっきりと寒い。
ダウンジャケットの上を寒風が撫でていった。
「とりあえず…コンビニまでいこうかな」
再度コンビニに行ってみる事にした。
行先はもちろん私のバイト先である。
街灯が少ない道であるが、月明りのおかげでだいぶ明るい。
今日は確か蒲生さんと沙也加がいるはずだ。
ちらっと様子でも見に行こうかな。
◇◇◇◇
20分ほど歩いて着いたコンビニ。
騒がしい入店音と共に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませー」
聞き覚えのある声に振りむくと、そこには蒲生さんがいた。
軽く会釈し、立ち読みコーナーへとそそくさと逃げる。
漫画を見る振りをしながら、ちらっとレジのほうを見てみる。
あれ?沙也加も今日出勤のはずなんだけどな。
レジにはいつも笑顔の蒲生さんしか立っていない。
あまり、ジロジロみるのも悪いだろうしやめとこうかな。
財布を開けてみると、小銭が少しばかりはいっていた。
なんか買って歩き回ろうかな。
色々見て回りたいし。
飲み物の一覧の中から適当に水を選び、レジへと足を運ぶ。
相も変わらず笑顔で接客をする爽やか残念イケメンな店長。
慣れた手つきでレジを通し、袋に入れてくれる。
「一二〇円になります」
おもむろに財布を開き、小銭を出す。
…あれ?沙也加いるじゃん。
レジ奥の業務場所がちらっと見えた。
あの後ろ姿は間違いなく沙也加だなぁ。
だけど特に言及もしない。
今の姿はただのイケメンでしかならないし、この二人の知り合いでもないからね。
◇◇◇◇
「ありがとうございましたー」
水だけ買ってそそくさと外に出た。
あー、なんか知り合いの店でこっそりと買い物してる気分。
変な緊張したわー。
ん?勝手に小銭使っていいのかって?
いいんじゃない?だって、今は私なんだし。
沙也加のプリティフェイスを拝めないのは残念であったけどね。
緊張をごまかすように買ったばかりの水を喉へと流し込む。
カラカラで張り詰めていた喉に癒しが運ばれた。
「ぷはぁ」
なんというか、水がすっごい美味い。
風は寒いんだけど、美味さのほうに集中して全く気にならない。
「さて、どうするか」
せっかくの時間だ。コンビニで水を買うだけで終わりたくない。
せめてこの現象の謎を解くために情報収集をすべきだと思う。
しかしながら私の足りない頭じゃ何もわからずじまいだ。
そもそも目的が漠然としすぎだと思うんだよなぁ…。
まったく知らない人を不幸にするとか、私にとっては申し訳ない気分でいっぱいだっての。
…ん?ちょっと待てよ。
なんか引っかかるぞ?
不意に浮かんできた疑問に私は頭を悩ませる。
私は昨日がバイトの休みだった。
てことは…。
「なんで私がいない?」
その疑問はすぐに解消できた。
単純に別人と入れ替わってるからではないのか?
しかし、店長も無断欠勤なんてのは許さないはずだ。
いくらなんでも電話はかかってくると思うし…。
気になる。今の私の身体がすげー気になる。
でもなぁ…家の中入ろうとしたらビリビリなんだよなぁ。
…考えてもしょうがないか!行くっきゃないよね!
半分ほど飲み干した水のペットボトルを振り回しながら、私は歩みを進めた。
「というわけでやってきましたマイホーム」
コンビニから歩いて5分。
やはり土地柄としてはいいところ持ってるなぁとしみじみ思う。
ていうか思ったんだけどさ、玄関入る時ビリビリなるんなら窓から見たらいいんじゃね?
天才じゃん私。
玄関を通り越し、居間の近くにある窓を覗く。
「…カーテンで仕切るとかあほか」
まさか日灯りが苦手性格がこんなところで裏目に出るとは。
…あれ?鍵空いてるじゃん。
良く見ると縁についている鍵が空きっぱなしである事に気づいた。
ラッキー。とりあえず中に…。
「ぎゃっぽう!!?」
というわけで人生二度目のビリビリに倒れ込む私。
玄関ならず窓までもそんな事になんの?
私の家要塞すぎワロタ。
何度かわからない気絶をしながら、セキュリティ入ってたっけ?と思う私であった。
他人の人生をなし崩しにしたら自分が幸福になりました 明鏡止水 @rai42747
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