無重力の砂時計
四志・零御・フォーファウンド
第1話 始まり。終わり。はじまり。
全人類を殺すことは実に容易なことだった。
12月25日、4時28分。
私はボタンを押した。
私がボタンを押すと、日本が機密に開発していた核弾頭ミサイル、計33発が日本各地で次々と発射された。東京には5発ほどのミサイルがあった。その5発が発射された際の光景は、ビルの隙間から見える夕焼けと重なってとても綺麗だった。
世界終末の始まりを見届けた後、首相官邸をこっそりと抜け出して彼女の元へ向かった。
ドアを開けると、僕を世界終末へと向かわせた天使の悪魔がいた。
天使の悪魔は地上へ来る代償として、頭より下は動かなくなりこの病院で世の中を観ていた。
「お疲れさま」
彼女は病室の窓から、終末の空を眺めながら言った。
「これで、ユメが、叶いますね」
「・・・・そうだな」
私が彼女に出会ってから数日後、
「この世界は間違った方向に来てしまいました。今後、どの道を選ぼうとも元には戻れません」
と、私にしか聞こえない程の小さい声で言った。そして、彼女は私に自分が天使であり、この世界に来たために体が動かなくなったこと、この世界の様子を調べるために来たということを告白した。
「調査の結果、この世界は壊さなくてはいけない。壊して創り変えなくはいけない、と私は判断しました」
私は、彼女の話を疑わなかった。なぜなら、私も同じ考えを持っていたらだ。
「ただ・・・・」
彼女は私を見て言った。彼女の瞳には光の輝きがうっすらと覗えた。
「最終判断はあなたに任せたいと思います」
なぜ、と私が尋ねると彼女は微笑みながら言った。
「それは、あなたも私と同じ考えを持っているからです」
それに、と彼女は続ける。
「私はあなたのことを愛しているからです」
彼女の瞳が微かに揺れた・・・・気がした。
世界が終わりを迎える中、彼女は嬉しそうにしていた。これまでに楽しんでいる顔を私は見たことが無かった。
「なぜ、嬉しそうなんだ?」
疑問に感じた私は彼女に質問をした。
「それは、この世界の最後にあなたと一緒に過ごせるからです。あなたもそうは思いませんか?」
振り返りざまに答えた顔は悪魔のようだった。
「ああ、そうだな」
その貌に見とれて、私は不愛想な返事しかできなかった。
「全く、つれない人ですね」
私は、彼女の手を握った。彼女も手を握り返してくれた。
「あなたは次の世界が、どのような結末を迎えると思いますか?」
彼女は夕焼けに染まる街を眺めて言った。
「結末を迎えて欲しくはないな」
彼女は私の考えを探るように、少しの間俯いてから答えた。
「私は・・・・」
彼女はその先の言葉を吐き出すことは無かった。代わりに、私を見つめた。彼女の瞳はいつもと変りなく微かな光が宿っている。
世界は絶望の色に染まっていた。この病院の2人を残して。
「もしかして、夕日が沈むとともに終わるようにしました?」
「よく分かったな。いいだろ、この終わり方」
「ええ、私好みの終わり方です」
窓から、地上に向かっている一つの光が見えた。
「本当の最後ですね」
そう言って、彼女は立ち上がった。しかし、私は驚かなかった。
「なんだ、体動くじゃないか」
「知ってたんでしょう?」
やはり、彼女は悪魔だ。
「・・・・ああ」
私は彼女の瞳を見つめた。これは私が初めての、私から初めての愛情表現。
「・・・・愛してます」
「私も,愛してる」
私は彼女を抱きしめた。
「・・・・ちょっと、痛いです」
「ごめん」
「いいんです。このままでお願いします」
2人は泣いていた。
それは、この世の終わりに泣いていたのか、嬉しさに泣いていたいたのか、嘘に泣いていたのか
彼らの雫の答えを知る人々は、すべて消えた。
私は風の強い雨の中、学校の屋上にいた。校則で屋上への立ち入りは禁じられていたのでコッソリと忍び込んだ。
屋上にはソーラーパネルが群れの様に置いてあった。私はそのソーラーパネルの群れを抜け、屋上の端に辿り着いた。
フェンスは無く、足を一歩出せば地面に真っ逆さま。そして、死のみが待っている。
私は『死』という恐怖に怯えていた。自らが望んでいたモノなのにいざとなると怯える。不思議だった。
そんな不安定な考えの中、私は遂に一歩を踏み出す。
刹那、強い風が吹く。その風は不安を吹き飛ばし、私に祝福を運んでくれたきがした。その思考は一瞬ではなく、とても長く感じられた。
体は空中に投げられ
天使がゆっくりと迫ってくる。
5100億年程前、私は『ティフォン』という怪物を生み出した。それはすべての世界を壊すことのできる、とても危険な物―――いや、兵器だった。
創るものが無ければ壊すことはできない。あれは後の『地球』と呼ばれる惑星を創ろうと構想していた頃だった。
私の生み出した子供により、『ティフォン』は奪われてしまった。
それから月日は流れ、『ティフォン』の存在を忘れかけていた頃。約46億年前、ちょうど『地球』の原型が完成した時だ。私の子供が、私のティフォンを奪った子供が帰ってきた。
私は問いただす。
「『ティフォン』をどこへ持って行った?」
「・・・・あれは『地球』に置いてきた」
その回答に驚愕した。すでに『地球』は惑星としての機能を開始した。
なぜ、と問う。
しかし、返事は言葉ではなく私の誘拐という解答だった。
それから、どれ程の時が流れたのだろうか。『地球』はうまく機能しているだろうか。
私は暗く光が閉ざされた空間で疑問を浮かべる。
誘拐される直前、私は地球にある仕掛けを施した。その仕掛けが起動すれば、『ティフォン』を破壊できる。
その仕掛けの名を≪砂時計≫と名付けた。
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