第3話 外世界

 

「それで、さっき言ってた世界が終わるって本当なのか?」

「いまさらですね!ええ、そうですよ、その通りですよ」

「そうか」

「何ですかー、さっきまで待ち望んでいた世界じゃないんですかー?」


 一体こいつはなんなんだという怒りを抑えつつ尋ねる。




 玄関の前に来たオレはドアを開けられなかった。


「あなたの考えていることがよく分かりますよ。怖いんでしょう?」

「ああ、その通りだ。外はどんな感じなんだ?」


 オレは後ろで早く外に出ないかと、そわそわしている天使に尋ねた。


「そーですねー、あなたの苦しみとは比べものにならないほど酷い世界になってます」

「どういう意味だ」

「何がです?」


 こいつにはオレの今まで考えていたことすらも分かっているらしい。それも、一生分のことが。


「もういい、外にでる」


 オレは外に足を踏み出した。だが、


「特に変わってない?」


 こういう話では空は赤黒く染まり、黒い雲に包まれ、町のビルや建物にはヒビが入り、いかにも終末という想像をしていたのだが、一度は見たことがあるいかにも夕方の空の色で雲も、オレンジ色に染まっているだけだ。もちろん、建物はいたって普通だ。


「本当に変わってないと思います?これを見て下さい」


 天使がそう言った瞬間、オレの視界は暗闇につつまれる。そして、景色は一遍する。


「ここは・・・・」


 何人もの人々が交差点で交わる。今にも誰かにぶつかりそうだ。そんな危惧していたことはすぐに起きた。突如現れたサラリーマンがオレの目の前に接近する。危ないと思い目を瞑る。そっと、目を開ける。そこには誰もいなかった。


「どういうことだ・・・・?」

「ここはご察しの通り、スクランブル交差点。そして、あなたはこの交差点の映像を見ているだけなのです!」


 この説明でサラリーマンとぶつからなかったことに納得だ。しかし、映像を見せるなど可能なのだろうか。


「ええ、可能ですよ。だって、私天使ですから」

「なんでもありだな」

「なんでもありです。そんなことはどうでも良くて、見てもらいたいのです。さあ!」


 天使は両手を広げ周りを見ろと言っている。

 オレは彼らの顔をよく見てみた。


「他人をよく見ていたあなたならわかるんでしょう?」


彼の顔は、絶望に浸っている。オレはそう思った。一見、帰宅途中で仕事の疲れの出ている顔だが、何かが違ったのだ。


「正解です。彼らは家族を養うため、一生懸命は働いていた。それなのに、もう意味がなくなってしまった。何のために働いていたのか?これからどうなってしまうんだろう?彼らはそう思っています。流石、いじめられっ子は違いますね」

「・・・分かってたんだな」

「もちろんです。担当する人間のことはこの世に生まれ落ちてから、ずっと観察してるんですよ。そんなこと見逃すわけないじゃないですか」

「担当ってことは、全人類は天使に観察されているのか?」

「いえいえ、そうではありません。神が選んだ限られた人間だけです」

「選んだ?」

「神はある可能性を持っている人間を、人間の受精卵形成時に定めます。その後担当する天使が決められ、指名された天使がその人間の人生を最後までを観察するのです」


 天使は機械の様に淡々と答えた。


「お前の他にも天使がいるんだな」

「ええ、たーくさん。それと私は『お前』という名前ではありません≪オファニム≫といいます」


天使、オファニムは拗ねた顔で言った。その顔は不覚にも可愛いと思ってしまった。


「流石に照れますって~」

「あ、ああ、すまない」


 心が読まれると会話しずらい。


「そんなに嫌ですか?」


 オファニムがオレを見つめてくる。


「嫌、というか会話しずらい・・・あっそうだ、他にも天使がいるんだったよな?オファニムの他にはどんな奴がいるんだ?」


 と、どうにか話題を変える。


「んー、天使って基本は観察してるだけなんでいつもつまんなそうにしてるやつしかいませんよ?」

「それじゃあ、お前は何してんだ?」

「私は仕事をしてるんです」

「オレの前に姿を現したことが仕事なんだな?」

「それは答えられませんね」

「どうしてだ?」

「あなたには権限がないからです」

「権限?」

 

 オファニムはため息を吐いて呆れた。


「全く、あなたは質問してばかりですねえ~?どういう立場なのか分かってますか?」

「どういうことだ?」

「あなたは、私に『生かされてる』だけなんですよ。これでもうあなたの立場が分かりましたよね?」


 すっかり忘れていたが、オレは死んでいたんだった。オファニムが『天使』と告げた時点で分かっていたことなんだ。


「なあ、そろそろ理由を教えて欲しいんだ。オレの心が読めるんだったらもう分かってるんだろう?」

「・・・それでは、教えてあげます。あなたはある理由でまだこの世に魂を残しています。そして、その理由は・・・」

「理由は?」


 肌の産毛が逆立ち、空気がピリピリとするのを感じた。今、オレが此処にいる理由が聞けるんだ。そう思い、緊張する。


「あなたは、グハッ!!!」


 突然、オファニムは前のめりに倒れこんだ。


「おい!どうし・・・」


 オファニムの真後ろに少女が立っていた。否、天使が立っていた。


「お前は何してんだよ」


 オレの前に新たに現れた天使は言った。その少女が天使だと分かったのは、少女には純白の、美しい羽があったからである。


「あなたは・・・・・?」


 オレは少女に問う。


「私はザフキエル。こいつの上司だ、よろしくな」


 1つのエピローグが幕を閉じ、1つ目のエンドロールが幕を上げる。 

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