第2話 笑み

 オレは、絶望した。




 12月25日、午後3時30分 授業は終わり、生徒たちは部活か帰宅を迫られる。部活に入っていないオレには帰宅の選択しかない。

 

「はぁーー」


 学校を出ると息が白くなった。体全身に寒気が走る。首に白のマフラーを付けるがオレには温かさを感じられずにいた。

 この白のマフラーを身に着けるたびに1年前の事件を思い出してしまう。それなのに今も身に着けているのは自分の心の底にある『懺悔』のためか。・・・オレにはまだ解らない。

 帰宅すると時計の長針は4を向けていた。とりあえず2階の自室へ行き、テレビをつける。そして、炬燵に潜る。

 帰宅したらテレビを見る。それはテレビゲームをプレイしないオレにとっては、数少ない娯楽の1つだ。ただ、運の悪いことに今日のテレビ番組で面白いものはないようだ。とりあえず、ニュース番組にチャンネルを変える。ニュースは最近話題の可愛い猫の特集をやっていた。オレは犬派なのでそこまで可愛いとは思わないかった。そのせいか、眠気が襲ってくる。猫たちに悪気はないが、オレの意識は猫が猫じゃらしで遊んでいる所で途切れてしまった。




 ・・・寒い。確か寝る前に炬燵の電源はついてたはずだが。

 オレは何かが割れるような音に起こされた。体が軋む。首も痛い。寝る体勢が悪かったのだろうか。

 テレビ番組の音だろうか。どんな番組やってるんだよ。

 そう思って目を擦りながらテレビを見ると、


「なんだよ・・・これ」


 テレビは、この世界の終わりを、伝えていた。

 これは比喩ではなく、そのままの意味だった。


「たった今、入った情報です。このミサイルには核弾頭が積まれています。このミサイルは日本政府が極秘に開発していたもので、何かのトラブルにより5時頃に発射するとの情報も入っております。このニュースをご覧になっている方はすぐに安全な場所、地下施設などの・・・」


 『この世界はなんて残酷なんだ』


 幸せに満ちた人間はそう思うだろう。だが、オレのようなただ時間を潰している日々を送るような人は、むしろ、


 『これは神様の素晴らしい慈悲だ』


 と思うだろう。なぜなら、何の前触れもなく『平等に』人が死ぬからだ。オレのような人間は他人の幸せを妬み、恨み、嫉妬している。それが、さっきまでの世界だった。

 だけど、今は違う。人間が自ら生み出した兵器で『平等に』みんな死ぬ。

 『平等に』・・・・死ぬ。


 オレは、そう思っていた・・・・目の前に天使が現れるまでは。


「こんにちわ・・・・いや、こんばんわ?お迎えに来ました」


 オレの前に、いつの間にか女性が立っていた。思考回路が一旦停止する。


「・・・・え?」


 その女性は中学生程の少女だった。服装は白のワンピースだ。冬場なのに白のワンピースは寒さを倍増させる。顔は非常に整っていているがどことなく幼さを感じる。しかし、その身長の高さからは小学生には見えない。


「あなたは4時28分、あなたの家に入った強盗に殺されました」

「は?何言ってんの?お前が強盗じゃないのか?」


 突如、目の前に現れた人間の方が強盗だと思うことが普通のはずだ。


「まあ、そう思うのも無理ありませんよね」


 ・・・・こいつ、俺の心で思っていたことを分かっているのか?


「ええ、分かります。そんなことより、リビングに行かれては?強盗さんがまだいますよ」


 何言ってんだ、こいつ。


「誰なんだよ、おまえは!?」

「私は天使です。あなたの魂を回収するためにやってに来ました」


 目の前の少女は何を言っているのか。まさかこいつ、本当は強盗なんじゃないか?


「私は天使です」


 こいつ、本当に心が読めるみたいだな。


「何度も言わせないでください。私は天使です」


 ・・・うどん。


「うどん」


 ラーメン


「ラーメン」


 そば


「そば。はぁー、あなたは麺類が好物なんですか?」

「正解。それにしてもお前は本当に心が読めるんだな」

「ええ、天使ですから」


 もう、付き合ってはいられない。


「分かった。それじゃあ、リビングに行った方がいいんだよな?」

「ええ、そうですが。こんな会話してるうちに、もう強盗は・・・・」


 オレは天使の言ったことを最後までは聞かずにリビングへと向かった。その途中、リビングまでに通じる廊下には黒い足跡が床に示されていた。それを見た俺は急いでリビングに向かう。そして、リビングに入ると、そこには服などが散らかっていて、荒らされた後が残っているだけだった。


「どうなってるんだ・・・・」

「だーかーらー、強盗が入ったんです!」


 いつの間にか後ろにいた天使が少々声を荒げて言った。

 もうここまで来たら完全に信じるしかない。


「信じて貰えたなら結構です」

「そう、ところでその強盗はどこに行ったんだ?」

「さあ、どこに行ったんでしょうね~。まあ、いいじゃないですか。どっちにしろ死ぬんですし」

「え?」

「え?って、あなた目覚めたときニュース見たはずですよね?」


 そう言われたオレは、思い出した。


「ミサイル・・・・、核弾頭・・・・」

「ええ、そうですよ。だから、どっちにしろ強盗は死にます。まあ、みんな死んじゃうんですけどねっ!」


 天使はかわいい顔をしながら怖いことを言う。


「かわいいって思ってくれてありがとうございますっ!」


ポジティブか。


「本当にみんな死ぬのか?」

「そうですよー」

「全人類?」

「それは分かりませんね」

「人類は生き延びるのか?」

「んー、それには答えられませんねー。その決定は代表者が決めることですから」

「人類のか?」

「ええ、そんなとこです」

「それは誰なんだ?」

「・・・それは答えられないです」

「そうか」


 オレという可能性が


「ないですね」

「だろうな」

「そんなことより、外に行ってみませんか?」


 天使は笑顔で言った。


「絶望に満ちた世界ですよ、ワクワクしますね!」



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