第5話 ゲームが始まる




「待てえっ!!!」


 彼は全力で走ってくる。右手には、本物とは思えないが剣を握っている。

 俺は右にあった階段を駆け上り、2階の教室に逃げ込む。


「どこ行きやがった!出てこい!」


 外からは俺を探す声が木霊している。


「俺が何をしたって言うんだ・・・・」


 俺はその場に座り込むと3年前の彼の顔を思い出した。


『彼は、棺の前で涙を流しながら悔しい表情をする。しばらくすると俺の方を向いて―――』


「そこかっ!」


 教室のドアが蹴り飛ばされて、彼が教室へ入って来た。


「俺が悪かった!謝る!だからもう止めにしよう!」

「今更何言ってんだ!お前が仕掛けてきて、お前が俺のことを殺すの躊躇っただけじゃねえか!」

「だから悪かったって!」

「うるせえよ!」


 彼は大きな剣を床に叩きつけた。


「お前を絶対に殺す。殺して、殺して―――」


 篠田は剣を振り上げた。



「どこい行けばいいんだ。アイツはいるんだ?」


 俺はオファニムに尋ねる。


「お墓に向かってますよー。地球が終わる日に家族のお墓詣りですかね~?変ですね~?」


 ふざけている。アイツに墓参りをする資格なんてない。


「なあ、そろそろ始めないか?」


 俺は剣を握り直しながらザフキエルに言った。


「そうですね、そろそろ始めましょうか。でもその前にルールを確認しましょう」

「分かった」

「制限時間は、核爆弾の1弾目が地上に着いたらです。あと5時間程度ですね」


 そのルールに疑問が浮かぶ。核弾頭が落ちてくるまでの時間がかかり過ぎる気がする。


「続いて勝利条件です。あなたが篠田浩二しのだこうじさんの頭を飛ばすことが条件です。敗北条件ですが、これは制限時間に間に合わなかった場合のみです」

「なあ、俺が殺されるってことは考えなくていいのか?」

「何を言ってるんですか?すでに死んでいますよね?」


 そうだ。忘れていたが俺は死んでいたのだ。


「最後に報酬です。これは、あなたの生き返り、人類滅亡の食い止め、そしてあなたの望みを1つだけ叶えましょう」

「え?望みを叶えるって、そんなこともしていいのか?」

「ええ、気が変わりました。考えおいてくださいね」


 望み。俺が望むことは・・・・


「それでは、始めます。準備はよろしいですか?」

「ちょっと待て。そんなすぐに始めるのか!?」

「はい。もちろんです。すでに核弾頭の発射されてるんです。もたもたしてたらゲームが始まる前にゲームが終わっちゃいますよ?」

「それもそうだな」


 ひと息吐くと、自然と笑みがこぼれた。この勝負は俺に得しか与えない。これは今までの俺の人生を見ていた、神様からの情けだろうか。


「それでは・・・始め!」


 その瞬間、俺は獲物を捕らえるため全力で走り出した。

 墓の場所は分かっていた。何度も、何度も、何度も、何度も、・・・・俺はカナが死んでから数か月は毎日、何かに囚われたかの様に足を運んでいた。

 けれど、アイツはカナが死んでから葬式以来、1度も墓参りをしていなかった。そんな奴に、世界の終末の日にだけ挨拶へ行くという、そんな都合のいいことががあって溜まるものか。

 風を切って自分の世界に入り始めると、カナが最後に言った言葉が頭に響きた。


『お前のせいだ』


 その言葉は、俺を『絶望』という牢獄に閉じ込めるための鎖だった。



「嘘だろ・・・」


 俺はテレビのニュースを見て愕然としてしまった。そのニュースは核爆弾が全世界で発射されたとのニュースだった。


「安全なところへ避難・・・安全・・・」


 安全な場所などあるのだろうか。


「そうだ!とりあえず母さんに電話を・・・」


 電話を掛けて繋がらなかった。なんど掛けても電波が悪いなどと言っている。


「くそッ!どうすれば・・・」


 人生の最後に家で籠ってるのはどうなのか。と考え始めたその時だった。携帯電話の着信音が響いた。俺は慌てて電話にでた。友人の博和からの電話だ。


「もしもし」

「おー!やっと繋がった!みんながあちらこちらに電話をしているせいで繋がりにくくなってんだよ!」

「そうだったのか。・・・それで、何の用?」

「お前、何してる?」

「何もしてない。家にいる」

「その様子じゃあ、ニュース見たな?」

「ああ、見た。お前も見たんだろ?」

「勿論。・・・そんなわけで、俺は今人生の最後に何をするのか聞いて回ってんだ」


 こんな時に呑気な奴だ。しかし、それはとても重要な気がした。


「最後に何をするか・・・」


 その言葉を口に出すと、彼女の姿が目に浮かんだ。


「あ、そだ。今のところ愛の告白をする、家族と過ごす、恋人と過ごす・・・、それとまだあきらめずにどこかへ隠れるとか言ってるやつもいたな~」


 あきらめない・・・か。


「・・・俺も最後にすることができたよ」

「分かった。それじゃ、それが終わったら学校に来いよ。一応避難場所になってるから。それと、最後にお前と会いたいしな」

「なんだよ、恋人と一緒に過ごさないのか?」

「いねえことは分かってんだろ!・・・それじゃ、必ず来いよ」

「おう」


 ツー、ツー、ツー。


 電話を切ると外へ出る支度を始めた。


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