第6話 死


 私は風の強い雨の中、学校の屋上に忍び込んでいた。

 屋上にはソーラーパネル群れの様に置いてあった。私はそのソーラーパネルの群れを抜け、屋上の端に辿り着いた。

 足を一歩出せば地面に真っ逆さま。そして、待つのは――死。

 私はその『死』という恐怖に怯えていた。自らが望んでいたモノなのにいざとなると怯える。

 不思議だった。そんな不安定な考えの中、私は遂に足を踏み出した。

 瞬間に、強い風が吹く。その風は『死』という単語を吹き飛ばし、『幸福』を運んでくれる雨風に思えた。

 体は空中に投げられ、地面がだんだんと迫ってくる、人生最後の風景がゆっくりと迫ってくる。



「人生最後に目にしたものは、コンクリートだった……って、こいつにすんの~?」


 背中に3つの白い翼が生え、右手に本を持った少女は、すぐ傍で寝ている少女に言った。


「バラキエル、それはお前が決めることなんだから私に頼るな」


 バラキエルと呼ばれた少女は「……ふぁ~い」と気の抜けた声を出すと姿を消した。


「そろそろだな」

 

 そう言って、少女は起き上がると山の上から夜の光輝く街を見つめた。


「……エレボス」


少女は独り言のように男を呼び出す。


「なんですか」


時を待たずして、彼女の横に黒い服を着た体格の良い男が現れた。


「ガイアを殺せ」

「――ッ!!!んだと!約束が違うじゃないか!」


 エレポスは声を荒げて少女に向かった。


「用済みだからだ。お前も分かってただろ。ティフォンがまた復活したんだ」


 少女はニヤリと笑う。


「あんなものをまた使うのか!?それに母が死んだらこの世界が――」

「ゼウスがどうにかするだろ。昔もそうしたんだから。あ~、けどあの戦いでだいぶ疲れてるからどうだろな」

「……もういい。分かった。俺は、お前――――」


 彼は言葉を最後まで話すことができなかった。なぜなら、


「ごめん、刺しちゃった!」


 少女はエレポスの腹に2匹の蛇が絡みついたステッキを突き刺していた。彼の脇腹からは鮮血が地面に流れていく。


「ケリュケイオン!?なぜそれを……!?」

「実はー、さっきヘルメス君をねー、殺っちゃった!」


 少女は笑みを浮かべながら、ケリュケイオンをより深く刺す。その苦しみから逃れようとエレポスは抵抗する。


「グハッ!」

「……それじゃあ、エレポス。君のお母さんによろしく頼むよ」



「……ここはどこだろう?」


 私は目覚めると見知らぬ場所に立っていた。なぜここにいるのかという記憶もない。


「誰かいませんかー!」


 声を出してみるが返事がない。


「……どうしよう」

「どうしようもないね」

「うん……ん?」


 今、私のものではない声がした。


「え!!」


 後ろを振り返ると、いつの間にか金髪の少女が立っていた。


「やあ!おはよう?こんにちわ?……まあいいか。とりあえずよろしくね!」


 そう言うと彼女は手を差し伸べてきた。


「え?……あの、あなたは?」

「私はバラキエル!よろしく」

「あ、私は宇賀神郁奈うがじんかなと申します!よろしくお願いします!」


 私は彼女と握手した。彼女の手は彼女の雰囲気とは裏腹に冷たかった。


「あなたは外国の方ですか?」


 日本人で金髪と言えば、外国人とのハーフだけだろう。


「え?私は外国人なんかじゃなくて天使だよ?」

「……アメリカンジョークってやつね!」

「いやいや、本当だよ!」


 彼女は少し怒った表情で言った。


「そ、そうなんだ。天使なんだすごいね~」

「馬鹿にしてない?ホントだからね!」

「ば、馬鹿になんてしてないよ~」

「……ならいいけど」


 どうやら、この子のペースに合わせたほうがいいらしい。


「あっ、そうだ。それでここはどこなのか知ってる?」

「ここは、死後の世界だよ」

「……え?」


 またしても変なことを言い出した。死後の世界とはどういうことだろう。


「いくらなんでも、それは冗談だよね?」

「本当だぞ、試しに君を殺してあげるよ」


 そう言うと突然、彼女は殴ってきた。


「きゃあ!」


 私は数メートル飛ばされてしまった。あまりの痛さにしばらく立ち上がれない。


「いっ、痛い」


 ようやく起き上がる。頭が痛い。手を痛みの部分に当てると、べっとりとした感覚があった。手を見ると、血がべっとりとついていた。出血しているのだ。


「そろそろだな」


 彼女は私の方に近づいて言った。


「……どういう、こと?」

「もう一回、血が出たところに手を置いてみて」


 そう彼女が言ったので手を置いてみる。


「なんでこんなこと――」

「手を見て」

「……ッ!!!」


 手をみると、先程までの血はついてなかった。それに、頭痛もしない。


「これは……」

「だからー、ここは死後の世界だって言ってんじゃん。数秒もすれば怪我も元にもどるんだよ!」

「……意味が分からないよ」


 一体何なんだ。気づいたら知らない場所にいて、金髪の美少女がいるわ、いきなり殴られるわ、血が出るわ、止まるわ。

 私はその場にへたり込んで、これが夢だと信じて自分の頬を叩いてみる。


「よし!」


 と目を開ける。


「……はぁ~~~」


 何も変わらない。ため息も吐きたくなる。

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無重力の砂時計 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123

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