#物書きのみんな自分の文体でカップ焼きそばの作り方書こうよ

芳賀 概夢@コミカライズ連載中

ペヤング、UFO、一平ちゃん……

どの焼きそばも好きだけど……

ともかくおいしく食べたいね!

 私とインスタント焼きそばのつながりを強くしたのは、父であったと思う。

 高校を卒業式の前日に、父は私にこう告げたのだ。


「車の免許を取ってこい。伊豆大島の合宿を申し込んでおいた。ちなみに明後日、出発な」

「What did ya say !?」


 私のその時の驚きたるや、つい英語が出てしまうほどだった。

 まあ、もともと普通免許は欲しかったのでありがたかったのだが……。

 ともかく、こうしたわけで卒業式の次の日に突然、大島の合宿所にはいることになった。


 ああ。そうだ。そこの飯だ。


 そのまずさたるや――絶句。とても食えたもんじゃなかった。だからと言って、合宿所の近くには飯屋などない。店があるのは、合宿所からかなりの距離がある伊豆大島の大都会(?)【元町】まで行かなくてはならない。

 そこで私は、近くの売店でよくインスタント焼きそばを買って食べていた。それこそ毎日の2食は世話になっていた。

 それだけ食べていると、作り方にもこだわりが出てくる。


 まず、封を開ける。

 そして、蓋を取るとコーナーにある排水用の3枚の口を開く。これは、これの角度は45度ぐらいだ。ちゃんと開かないと、排水時に麺や具材がつまり、なかなか捨てられずにイライラする。しかし、空けすぎると具材がこぼれやすくなってしまう。

 ちなみに最近のは、蓋ではなくカップ本体にシートとして貼ってあり、それを剥がす物も存在する。これは調整のしようがないので面白みがない。まるで、マニュアルとオートマの車の違いのようだ。

 さて。その後に前者のタイプならば麺の上に具材を載せる。麺の海に泳ぐ、カラフルな水着を着た愚民のごとくだ。麺の下に具材を入れるなど愚かしいことこの上ない。

 後者の場合は、具材がなるべく上の方になるように混ぜることになるだろう。

 浅はかな素人は、なんでこんな事をやるのかと疑問に思うやもしれない。だが、極めた先に素人には見えない道があるものだ。

 この極意を簡単に噛みくだいて言えば、これをやらないと、どうしても具材が下にいってしまい、食べた時に最後に、キャベツとは思えない粉々の緑や、肉とは思えない細かい粒が最後に残ってしまう……ということである。

 おいしく食べるには、麺と上手く絡めさせたい。

 この儀式を忘れた場合は、後述するソースかけの儀式前にしっかりとかきまぜることだ。ソースを書けてからでは、君の焼きそばは、残念ながら……手遅れだ。

 ところで、君はタイマーは持っているか? 今時ならばスマホがあれば事足りるだろう。そのタイマーを2分40秒にセットする。


 ――まだだ!


 まだタイマーをスタートするな。「慌てる乞食は戻しが早い」と昔からインスタント焼きそば界では言われているだろう?


 ここまで準備ができたら、お湯を注ぐのだが、お湯は98度以上が好ましい。

 平らな場所に置き、お湯を規定のラインまできっちりと入れる。少なめはいただけない。多い方がまだましである。

 注ぎ終わるまでの時間は、注水後10秒きっかりを目指そう。誤差範囲は、1.5秒まで。誤差が出た場合は、この後の待ち時間で調整する。入れ終わったら、神速でタイマースタートである。

 おっと。火傷には十分注意だ。沸騰したお湯などは、まるで生き物のように元気よく跳ねる。「トビウオか!」と突っこみたくなるほど跳ねる。慌てず急いで注いで欲しい。

 それとインスタント焼きそばのカップは、二重底になっている物もあるが、油断は禁物である。下手すれば、その先にあるのは「死」だ。アーメン! それぐらいの覚悟が必要だろう。死にたくなければ、持つ時にも注意を怠らないことだな、少年。


 後は待つだけ……などと甘いことを考えてはならない。


 まず、すぐに蓋の上にソースをのせよう。ソースを温めることにより、ソース内の油分が程よく混ざり、全体が滑らかになる。これにより麺に均等に絡まりやすくなり、混ぜやすくなるのだ。無論、ソースをかけた時に麺を冷まさないようにする……などと言うことは、当たり前すぎて言うのも馬鹿らしい。

 また大きなどんぶりを用意しておくとよいだろう。なぜかって? 理由はすぐにわかる。


 これができたら、あとはタイマーとにらめっこだ。一時とも目を離してはならない。油断して寝落ちすると、やきそばがうどんに変わることもある。それでもうまいならば救いもあるが、そのまずさたるや、筆舌に尽くしがたい。


 2分35秒になったら深呼吸だ。精神を統一する。

 そこから、40秒と同時にお湯を捨てる。器を持つ場合は、対角線上のコーナーを親の敵をつまみ潰すぐらいの気持ちでつかむ。そして、あまり急な角度にしないようにお湯を捨てる。

 おおっと、忘れていた。素人は、シンクに直接、お湯を捨てるような馬鹿な真似はしないことだ。やろうとした者は、身の程を知るがいい。どうせ、そのままシンクに麺を流してしまう愚かなオチがつくに決まっている。ああ、なんというテンプレ感。

 お湯を捨てる先はシンクではない。先ほど用意したどんぶりだ。そこにお湯を捨てるのだ。これならば、麺を落としても救済ができる。ただし、お湯がたまると跳ねて危ないので、適度にお湯を捨てるなりするといいだろう。ちなみにプロになると、インスタント焼きそばお湯捨て専用のザルがついたどんぶりを持っているものである。

 ある程度、お湯が切れたら一度、水平に戻し、また斜めにしてお湯を捨てる。

 そしてしっかりとつかんだままで、軽く振って湯切りする。

 この間を15秒で終わらせよう。誤差は3秒まで法律上、許可されている。


 次に水平な場所に置いて……何をするかわかるかな?

 ……ああ、違う違う。シートをすぐにめくってはならない。

 シートの空け口を自分とは反対に向けて、シートの上を指でパチンパチンと弾くのだ。

 これは具材落としの儀式だ。シートに貼りついた具材を無駄なく器に戻すのである。

 そして落としきれなかった物は、シートを剥がした後に箸で取る。余すことなく箸で取る。


 ここまでで、3分だ。

 素人は勘違いして、3分後にお湯を切ろうとする。

 だが、それでは遅い! 遅すぎるのだ……。

 麺が柔らかくなりすぎてしまう。

 程よい麺の硬さにするには、3分後には湯切りが終わっているのがベストだ。


 さあ、花形ソースの登場だ。

 白い麺を暗黒で染め上げる時間だ。

 まず、麺をかるくほぐすように混ぜる。具材がなるべく混ざるように努力する。

 そして、ソースの封を切る。この時、口は小さめに切るとよい。大きく切ると、出過ぎて困ってしまう。

 それをまんべんなく、麺にかけていく。一箇所だけにドバーッとかけてしまうと、全体に行き渡しにくい。できることなら混ぜながら、ソースをかけたいところだ。もし、あなたに将来を約束した相手がいるなら、混ぜ手と掛け手に分かれて初めての共同作業と洒落こみたいところだ。これにより、2人の未来はソース色に染まるだろう。

 ただし、ソースの飛び跳ねには注意しよう。飛び跳ねたソースは、シミになってしまうために、すぐに取り除かなければならない。すると焼きそばを食べるのが遅れてしまう。オーマーガッ!


 トドメは、ふりかけだ。

 ふりかけには通常、青のりと紅生姜などが入っている。これはお好みでいい。君色に染まるようにかけて欲しい。きっとここにこそ、君の個性が光るのだろう。追加の調味料も有りだ。辛味が好きなら、一味を書けてもいい。食欲増進に、ガーリックパウダーやごま油をたらすのもありだ。いっそうのこと、ご飯をのせてそば飯という炭水化物に対する挑戦を行ってもかまわない。

 もうそこは、君の世界。

 君は自由なのだ……。


 ただし、調理の手間は30秒までだ。

 せめて、それまでには一口目を口に入れたい。それがインスタント焼きそばに対する礼儀だろう。

 食べながら味を変えるのもエクセレント。

 食べる時は、底部に行きがちな具材を拾いあげながら食べるようにしよう。こういう所でも、カクヨムでやっていたスコップ作業が役に立つと感じる人がいるかもしれない。


 食べ終わった時は、味を反芻して「ごちそうさま」をメーカー、水道・電気・ガス等の各管理会社、そしてすべてに対して感謝をこめて言おう。今、あなたが食べたインスタント焼きそばは、彼らの血と汗と涙がこめられているのだから。


 最後に。

 すべてが終わったら、うがいをして、口を拭こう。

 そうしないと……ほら。鏡を見てごらん。

 唇にソースが、前歯に青のりがついてるぞ……。

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