Cパート

ドリーム★コネクターズ -幸福少女と現実少年-

 エリが目覚めてから一ヶ月後――



 灰色の空。

 エリはユリエに買ってもらった上着を着て簡易的な花束を寒空の下を歩き、目的の場所に到着する。


「……」


 彼女は家の前に立ち止まり、ゆっくりと見上げた。

 空き家と書かれたそこは、半年前まで住んでいた自分の家であった。

 もう、ここには誰も住んでいない。来たところで誰も迎えに来ないのは知っている。


 だが、ユリエ率いるドリーム・コネクターズの許可を得て見に来たのだ。

 彼女は何か言葉を発することもなく、ただただ自分の家であった所を見つめていた。


「……」


 まるで、時間が制止してしまったかのような場所。白い息だけが左から右へと流れていく。

 何もかも終わったのだ。

 あの夢の中の冒険も、上野公園連続通り魔事件も……

 沢山の人達が、彼女を迎え入れてくれた。

 しかし、エリの心の中はポッカリと穴が開いたような虚無感が残っている。

 無理して笑うことも、怒ることも、冗談を言うことも出来るようになった。だが、大切な者達を失った悲しみを深く彼女の心を抉りとっていた。

 もう両親は帰って来ない。

 そして、夢の中で一生懸命助けに来てくれた兄も……もういない。


「ありがとう……」


 エリは持ってきた花束を家の塀の下に置いた。

 両親の墓参りという訳ではない。もう一人の墓も作れない家族の為にエリは花を渡したかった。

 自分が今ここに居られる。そのことを心の底から感謝して……


「……エリちゃん?」


 ふと、エリは声を掛けられる。

 聞き覚えのある声、そして呼び方。

 思わずエリは長いツインテールを揺らし、声の元へ顔を向ける。


「エリちゃん……だよね?」


 そこには上着を着込み、白い息を漏らす少年の姿があった。

 エリは目を丸くする。


「……お兄?」


 夢の中で助けてくれた実の兄が目の前に居た。

 だが、そんな訳はなかったのだ。


「覚えててくれたんだね。久しぶり、関口だけど……名前も覚えてるかな?」


 止まりそうな息を吐き出したエリ。

 当たり前だった。

 水瀬ショウは元からこの世界にいないのだ。

 だが、久しぶりの再会に嬉しくない訳がなかった。


「覚えてるよ……関口お兄。久しぶりだね」

「良かった! 連絡無しでいきなり来たから、忘れてたらどうしようかと……うん、久しぶり!」

「……何で、関口お兄がこんな所に?」


 エリも許可を取ってたまたま外出した日に、まさか関口ショウに合うとは思ってもみなかった。

 しかも、自分の家の前で……

 すると、関口ショウは頬かきながら話してくれる。


「えーっと……信じてくれないかもしれないけど……」

「……うん」

「夢を……見たんだ。一昨日ね」

「……夢?」


 関口ショウは頷き、話を続ける。


「そう、夢……凄く長い夢を……空飛ぶ動物や、恐竜や、ゲームみたいな世界や、海の中を冒険するような結構壮大な夢をね」

「……ッ!?」


 彼の言葉にエリは戸惑う。

 関口ショウが知るはずのないことを平然と言ってのけたのだ。


「夢の中で僕はエリちゃんを追いかけて、いろいろな人と出会った。最後は駄々をコネる君を無理矢理起こしてあげた……そんな夢だった」

「……覚えているの? その夢を」

「うーん……ハッキリ言ってうろ覚えなんだ。だから、本当にその夢だったか覚えてないんだよね。一ヶ月前に夢を研究してるって変な人達が来たから、その影響で見ちゃったのかな? その人達も出てきたような気がするし、ははは!」


 関口ショウは笑う。

 理屈的にはありえない。関口ショウは水瀬ショウとしてエリの夢の中に現れたのではないと、ドリーム・コネクターズが証明したのだ。

 だから、彼はたまたま似たような夢を見た。

 ただそれだけのことだった。


「でもね……たまたまそんな夢を見ちゃったんだけど、僕には何かその夢には意味があると思って来たんだ」

「意味って……」

「シンクロニティ……意味のある偶然の一致っていうやつだよ」


 関口ショウがはにかむ。


「夢の中の僕が、君にどうしても言いたいことあったらしくて……それを伝えに来たんだ」



 二人は向かい合う。



「退院おめでとう。良く頑張ったね、エリちゃん!」


 エリは、ずっと堪えていた気持ちが目から零れ落ちてしまった。


「……お兄!!」


 彼女はショウに抱きつく。沢山の人に迷惑をかけた痛みと、両親が死んだ悲しみが一気に流れ出してしまった。

 嗚咽を漏らす血の繋がらない妹をショウは強く抱きしめ、全てを受け止める。

 久しぶりに会ったはずなのに、何故か彼の目にも涙が浮かんでしまった。



 雪の結晶がサラサラと空から落ちてくる。

 キラキラと光る白い雪が、彼等を包むように優しく降り出した。

























 彼等は、これからも自分の未来を進んでいく。

 どんなに心が折れそうになっても、それでも自分の幸せな未来を信じて自分の道を進んでいくのだ。


























ドリーム★コネクターズ -不幸少女と空想少年-


<完> 









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ドリーム★コネクターズ ー不幸少女と空想少年ー バンブー @bamboo

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