灯り祭
worm of books
灯り祭
夜。閉ざされた闇の中、僕は静かにその時を待つ。周囲の人々もこの時ばかりは喋るのを止め、ひっそりと見守っている。
一体とした緊張感。それは傍らの「彼女」も同じようで、握った手から微かな汗の温度を感じた。
「………もうすぐ、だね」
「ああ」
僕も声を潜めて返す。
そう、もうすぐなのだ。
暗闇に包まれた神社に、段々人が集まってきた。僕と「彼女」がこの村に生まれる前から、ずっと、ずっと続いてきた行事。そう思うと少し不思議な気がした。
もしかしたら、この祭りが始まったずっと昔に、僕と「彼女」がここで、今日逢う事は決まっていたのかもしれない。脈々と続く歴史。奇跡的な偶然をもって、僕と「彼女」はここに二人で佇んでいる。
この伝統的な祭りが今日まで保たれているのは、村の規模からして信じ難い。過疎化、少子化、高齢化。日本の辺境の数多ある山村と同じように、この村も最近の人口減少に歯止めがきいていない。小学校なんて合併に合併を繰り返してもう一校しかないし、ここから最寄り駅までは軽く1時間はかかる。
ものすごく、不便。
でも、僕はそんなこの限界集落が大好きだ。だって、「彼女」に出逢えたから。それはパソコンでネットサーフィンできる贅沢や、すぐ近くにコンビニがある便利さよりもずっと価値がある。
そして、僕と「彼女」が初めて出逢ったこの地で、もうすぐ。
「あの時も灯り祭の夜だったな」
「え、覚えてるの?」
「彼女」は目を丸くして驚いた。僕たちがまだ小2だった頃、僕と「彼女」はここで逢った。偶然お互いの親が知り合いだったおかげで僕と「彼女」はすぐに仲良くなった。
いわゆる「幼なじみ」。
僕は、「彼女」と幼なじみで本当に幸せだ。
そして、「あの時」で通じる僕たちが。
それは、突然に始まった。
夜空に煌めく柔らかな光。きれいに並べられたその灯りが、人の手で次々と点されていく。まるで、この世のものとは思えないくらい。
この上なく神秘的な光景だった。
静寂をつき破るように、周りから歓声が上がった。
ずっと、ずっと続いてきた伝統。きっと何千回も繰り返されて、この夜空に歓声を響かせてきたのだろう。
「綺麗………」
ため息のように「彼女」が洩らす。
「いや、」
言い掛けて僕はやめた。だって、僕にはそんな気障なセリフ、似合わない。
だから心のなかでそっと呟こう。
――――君の方が、何千倍も綺麗だよ。
「ん?なにか言った?」
振り向く「彼女」に、僕は少し慌ててしまって、誤魔化すように付け加えた。
「なんでもないよ、あかり」
どうか、僕のとなりの「灯り」がずっと輝いて、消えませんように。
こうして、今年も灯り祭は無事開催したのだ。きっと、来年も再来年も、そのまた未来も。
この寂れた辺境の村で、灯りが点っていることを。
灯り祭 worm of books @the_worm_of_books
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