大人も子供も安心して読めるロマンチックな児童文学風作品
- ★★★ Excellent!!!
ずっとずっと昔に見た何かの番組に、浜辺で拾った巻き貝を耳にあてるシーンが有ったことを、読んでいて思い出しました。巻き貝は内側に海の記憶を閉じ込めていて、静かに耳をすませばその記憶の海の音が聞こえてくるのだというのです。当時子供だった私は、そんなロマンチックなお話にあこがれて、まねをして巻き貝を耳にあててみたものです。もっとも、私が耳にあてたツヤツヤ光る巻き貝は、祖父母が旅先の土産物屋で買ってきた飾りものだったのですが。
雨の日に喫茶店を訪れた不思議なお客さまである彼女と、その喫茶店のマスターである洋さんとのピアノを通じた交流。この物語も、前述のような不思議でロマンチックな発想を下敷きに進んでいきます。少しずつ明かされてゆく洋さんのピアノにまつわる記憶。もしかして……と想像ふくらむ不思議な彼女の正体。大人も子供も安心して読める、ふわりとやさしい児童文学風の作品です。