第2話「カップ麺を食べてみた件」

「だ、大丈夫かい?」

 

 少女を抱き起し話しかけた。


「ペコペコでもう動けそうにないです」


 返事があった。ほっと安堵のため息をつく。

 少女は紫色の瞳でじっと僕を見つめてくる。

 モチモチしたみずみずしい肌に、自然な銀色の髪に長い耳。

 この少女がエルフなんだと一目で気がついた。 

 それとは別に少女の回りを小さな光がくるくる回ってる。

 これは一体なんだろうか。


「それは光の精霊です。シェリルは精霊使いなんです」


 少女は力なくそう言った。

 本当にお腹が空いて限界みたいだ。ここは何か食べさせてあげよう。


『アナザーリスト』を眺めながら何にしようか思案する。

 コンビニ弁当もあるが500Pは少々値が張る。

 それに僕も腹が減ってきた。そうなると二人分必要だ。


 使用可能ポイントを確認するためマイページを開く。


 =異世界ヨーチューバー=

 チャンネル名:ゆうなまTV

 アカウントLv:1

 チャンネル登録者数:32

 投稿動画数:1

 獲得ポイント:1030P

 使用可能ポイント:930


 =投稿動画リスト=

 ・とある道具で火をつけてみた:再生回数301回


 最初に投稿した動画の再生数が300回を超えていた。

 使用可能ポイントが30P増加して930Pになってる。

 しかもチャンネル登録者数が早くも32名?

 レシートを燃やしただけの動画でこの成果は異常である。

  

 が、そこはまあ置いといて……二人分となると飯になりそうなモノはカップ麺ぐらいしかない。


・カップ麺(醤油味):100P

・カップ麺(カレー味):100P

・水のペットボトル(1L):100P

・鍋(小サイズ):300P

・割り箸(100本入り):200P


 あれよこれよと必要なモノを揃えていると結局800Pも消費した。

 あとは少女が喜んでくれたらいい。

 口に合うかは疑問だけど、何も食べないよりは断然いいだろう。


「少し待っててね。ご飯の準備をするから」


 エルフの少女の名はシェリルというらしい。

 ぐったりしている。カップ麺でも少しは元気になってくれるかな。

 そんな事を考えながら僕は周囲から大き目の石を集めてくる。


 石を重ねてかまどを作る。

 その上に鍋を置く。

 燃料は乾燥した枝と枯葉だ。


 鍋に水を注ぎ、枯葉にライターで火を付けようとするが中々火がつかない。

 財布の中にレシートが数枚残っていたので、着火剤代わりにした。


 お湯が湧いたので、カップ麺に湯を注ぐ。


「もう少し待っててね。あと3分ぐらいでできるから」


 蓋を開けると醤油味の芳ばしい香りがふわりと漂ってくる。

 カレー味の方もスパイスの効いたいい香りだ。

 僕はシェリルに尋ねる。


 無難な醤油味かスパイスの効いたカレー味か。

 シェリルはどちらが好みだろうか。

 するとスパイスの香りが食欲をそそったようで、シェリルはカレー味を選んだ。


「さあ、食べようか。熱いから気を付けてね」

「あ、はい。ありがとう」


 割り箸を割ってシェリルに渡す。

 が、割り箸なんて使ったことがなかったようだ。

 それでもシェリルは割り箸をフォークのように器用に使いこなす。


 シェリルは感激したのか涙目でモグモグと美味しそうに食べてくれている。

 少しでも元気づいたようで良かった。

 そしてシェリルが照れながら僕の名前を聞いてきた。


「ユウキだよ。よろしくね」

「……ユーキ、さん?」

「ユウキでいいよ」

「はいっ! ユーキ、とっても美味しいです!」


 ユーキじゃなくてユウキだけど、まっいいか。

 

「こっちの醤油味も食べてみるかい?」


 何故だか僕はあまり手を付けずにいた。

 もちろん腹は空いてはいたけど、シェリルに食べさせたい気持ちのほうが勝っていた。

 それにシェリルの食べっぷりを見ているだけで、満足している自分もいた。


「いいからいいから遠慮しないで、今はそんなにお腹空いてないから」

「ほ、ほんとにいいの?」

「もちろんだよ」


 醤油味の方も美味しそうに食べてくれた。

 

「こっちも香ばしくてとっても美味しいです!」


 満面の笑みを向けてくれる。

 とても幸せな気分だ。ペットボトルの水も残っているので、シェリルに渡す。

 シェリルは両手で握ると少しだけ口に含んだ。


「このお水も、とっても美味しいです!」


 日本の有名な水源が褒められて嬉しかった。

 食事も済んだので後片付けをする。

 カップ麺の容器を穴に埋め、鍋と割り箸とペットボトルはアイテムボックスに収納した。


「歩るけるかい?」

「はい、元気いっぱいです」


 さすがに元気いっぱいには見えないけど、歩くことはできそうだ。

 できれば人里にいきたい。森には危険が潜んでそうだし……。


「この近くに人里はあるのかな?」

「ありますよ」

「ちなみに、ここってどこなの?」

「エルムリンの森です。シェリルはいつもこの辺りで木の実を集めてるんです」


 シェリルは肩から小さなポシェットをぶら下げていた。

 しかし残念なことに中は空っぽだ。

 最近は動物や魔物もこの辺りの木の実を食べるらしく、数が激減して探すのも一苦労だという。

 そして集めた木の実を街で売って生計を立てているそうだ。


「ユーキ、街はこっち」


 ここはまだ森の浅い場所で、街道にでるまでさほど時間はかからないらしい。

 逆にこれ以上奥まで進むと凶悪な魔物に遭遇する可能性がグッと増すそうだ。


 僕はシェリルに救われたと思う。

 一人じゃ進む方角すらわからず、彷徨い歩き魔物の餌食になったかもしれない。


 なーんて考えてしまったこと自体がフラグだった。

 小鳥たちが怯えるように飛んでいく。


「……何かが来る!」

「ユーキ……あ、あれはドラゴン」


 見ればわかるドラゴンだ。

 森の上空から僕達は既にロックオンされていた。


 ドラゴンが咆哮を挙げ、急降下してくる。

 その距離、数十メートルか。


「走るぞ! シェリル!」

「はいっ!」


 僕達は森の中を駆け抜ける。

 だがドラゴンは的確に狙いを定め追ってくる。

 シェリルが転んだ。

 慌てて引き返しシェリルを抱きしめた。


 ドラゴンが着地した風圧が僕達を襲う。

 獲物を決して逃さない決意に満ちた眼光だ。

 ドラゴンは長い首を伸ばし不揃いの牙で僕達を威嚇した。

 同時に長い尾で僕達の退路を断つように捻らせる。

 絶望だ。

 新たな世界でヨーチューバーを満喫しようとした矢先に、これか。

 僕はほとほと運に見放されてるようだ。

 だが隣のシェリルは諦めていない。

 

 そうだ、シェリルは精霊使いだ。

 もしかしたら炎の精霊イフリートのような、ゲームの得た知識同様の上位精霊を召喚し、ドラゴンを焼きはらってくるれるかもしれない。


「目くらましが限界です。シェリルは光の精霊しか使えません」


 某マンガの太陽拳といったところか。


「ユーキ! 目を伏せて!」


 光の精霊がドラゴンの眼前で激しくスパークした。

 凄まじい閃光がドラゴンの視界を奪う。

 視界を奪われたドラゴンは混乱し、口を開けたまま我を忘れて突っ込んでくる。

 すかさずそこに僕は右ポケットに入れていた瓶を放り込む。 

 ドラゴンは訳もわからないまま、瓶を牙で粉砕した。

 や否や、ドラゴンは激しく慟哭し辛さで悶え苦しむ。

 

 ドラゴンの口の中に放り込んだものは、デスソースだ。

 その辛さはタバスコの比では無い。身を持って体験済みだ。 


「ドラゴンが苦しんでる。ユーキ何をした?」

「めちゃくちゃ辛いソースをぶち込んでやった。今の内に逃げるぞ!」


 シェリルの手を引いて森を疾駆する。

 心臓がばくばくな上に、息があがる。

 が、僕達は無事に逃げ切った。

 森を抜け街道にでた途端、脱力し大の字で寝っ転がった。

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