第4話「冒険者ギルドへ行ってみた件」

 エルドーラ王国の守備隊長のガラハウは興奮した。

 どこでも自由に火が灯せる道具は革新的な技術だと思った。

 この道具があれば、今よりも格段に生活の利便性が向上する。

 特に火種の管理は手間がかかり、下手をすると火事になる場合もあるのだ。

 1軒ならまだいい。最悪な場合は燃え広がり大惨事となる。

 その場合、宮廷魔術師までもが駆りだされ魔法で火消しする嵌めになるのだ。


「このライターがあれば、皆が安心して暮らせる世の中に大きく一歩踏み出すぞ!」


 ガラハウは3番街を取り仕切る侯爵家の邸の門を叩く。


「ラムレス侯爵いらしゃいますか。守備隊長のガラハウでございます」


 ガラハウは深々とお辞儀をし、ラムレス侯爵にライターを見せた。

 ラムレス侯爵がどう判断するのかも気になるところだが。


「ふーむ……たしかに素晴らしいモノだ。しかしこれは一体どんな仕組みになっているのだ?」

「恐れながら拙者にもわかりかねます」


 ただ若者の説明では永遠に使える道具ではないと聞いた。

 透明な容器の中にある液体がなくなった時点で、使いものにならなくなる。

 それでも、同じものが大量生産できれば問題ない。

 オレの考えも含めてラムレス侯爵に意見した。


「これを持ってきた若者は異国人なのだな?」

「さようでございます」

「入国を認めてやるのだ。そして――これがその者への褒美だ」


 小さな袋がゴトっと音を立て目の前の机に置かれた。


 恐らく、オレの給金の数カ月分が入っているのだろう。

 そう考えると銀貨3枚の通行料など、どうでもよくなってくる。


「うむ、得体のしれぬ若者だが我が国にとって益をもたらした。他にもまだ何かあるやもしれぬ。丁重に扱うのだ。それから……そうだのう……冒険者ギルドのミレーユに手紙をしたためるゆえ、その手紙を持って冒険者ギルドへと向かうように伝えてくれ」


 この3番街には腕利きの職人ドワーフのグリーバスがいる。

 ラムレス侯爵はドワーフにライターを分解させ仕組みを調べさせるようだ。


「で、その若者はヨーチューバーでもあったな。その者のチャンネル名はなんと言う?」

「ゆうなまTVでございます」

「ふむ。これだな、投稿動画はまだ一つしかないようだが、これから目が離せなくなるかもしれんな」

「拙者もで、あります」


 ラムレス侯爵に事後を託されオレは急ぎ足で戻った。




 ◆◆◆

 



 暫くすると強面の守衛さんが戻ってきた。

 先ほどとは手のひらを返したように、にこやかな笑みを浮かべていた。

 普段はこれが素で、仕事柄けわしい顔になっていたのかも。


「で、どうったんですか?」


 まあこの表情を見れば結果は歴然なんだけどね。


「通行料はいらぬ。それどころか褒美まで渡されたぞ。あとはこの手紙を持って冒険者ギルドへ向かってほしい」


 小さな袋と手紙を渡された。

 ずっしりとした重量感を感じる。

 僕の財布よりは遙かに重たい。


「これ……ほんとに貰ちゃっていいのですか?」

「うむ。この3番街の統治者、ラムレス侯爵からの褒美だ。ありがたく拝借するがいいぞ」


 ほんと予想外の展開だ。通行料が無料になるだけじゃなく褒美まで貰えちゃうなんて。


「ゆうなま殿」

「ユーキです」

「失礼したユーキ殿。冒険者ギルドはこの大通りを真っ直ぐ進めば直ぐに見つかる。必ず向かうようにな」

「はい、御親切にありがとうございます」


 僕達は強面の守衛さんにお礼を告げ大通り真っ直ぐに進む。


「よかったねユーキ」

「うん、シェリルのおかげだよ」

「ううん。そんなことない。ユーキは美味しい料理食べさせてくれるし、ドラゴン撃退しちゃうし、スライムまでペットにしちゃうし。全部シェリルには無理なことばかりだよ」


 そんなことを話しながら歩いていると冒険者ギルドが見つかった。

 木造の二階建で、1階が酒場で2階には寝泊まりできる宿も用意されてるようだ。


 入口の扉は開放されおり酒と肉の香が漂ってきた。


「ここで間違いなさそうだ」


 室内は活気に満ち溢れ、冒険者で溢れ返っていた。

 奥に受付用のカウンターがある。

 カウンターにお姉さんがいるし、あの人に聞いてみよう。 

 

「あのう……すみません」

「あら、見ない顔ね。冒険者登録かな?」

「あ、はい。それもあるんですけど、ここにミレーユさんって方、いらしゃいますか?」

「ミレーユは私だけど、どうしたのかな?」

「この手紙を渡すように言われてまして」

「まあ珍しいラムレス侯爵からの手紙じゃない」


 お姉さんは蝋封を解き手紙を読む。

 そして手紙の内容を話してくれた。

 

「冒険者ギルドの登録手数料は無料。あと今晩の夕食でおもてなしをするようにって書いてあるわ。そんな訳だから今晩の夕食は付き合って貰うわね!」


 至れり尽くせりだ。まさかライター1本でこんなにも高待遇になるとは予想だにしていなかったぞ。

 

「それとこれが冒険者登録の記入用紙よ。記入の方もお願いね」

「はい、わかりました」


 えーと、職業はヨーチューバーで、名前はユーキ。

 特技を書く欄もあるのか。うーん……なんかあったっけな?

 頭を捻ってるとシェリルとミレーユさんが話し始めていた 


「ところで、シェリルちゃん。その……抱いてるのはスライムなの?」

「うん。ユーキに懐いてる」

「スライムが人に懐いたって話は聞いたことないわね」

「シェリルも初めて、だから驚いてる」


 なんだシェリルとお姉さんは顔見知りなのか。


「それはそうと今でも木の実の採集に行ってるの?」

「あれはシェリルの大切なお仕事」

「……たしかにクコの実は高く売れるし需要もあるけど。でもね……シェリルちゃん。最近のエルムリンの森は魔物が増えて来て危険なの。ドラゴンまで出没してるらしく討伐隊を検討してるところなのよ」

「……知ってる。今朝方ドラゴンと遭遇した」

「えっ!?」

「でもね。ユーキが撃退してくれた。ユーキはシェリルの命の恩人なんです」


 お姉さんが僕の方へと振り向いた。


「撃退したって言うとオーバーに聞こえちゃうかもしれませんが、ドラゴンに遭遇して逃げてきたのは事実ですよ」

「無事でいられただけでも奇跡よ。いいわ、その話は後でじっくり聞かせて貰う。食事の準備ができるまで、そこのテーブルで待ってて頂戴ね」

「わかりました」


 今晩の夕食は特に奮発してくれるようで楽しみだけど、窓から覗く夕焼け空を眺めていると、感傷的な気分になってくる。

 僕は本当に見知らぬ世界に迷い込んだんだなぁと。


「はい、お待たせ!」


 テーブルには鉄板にのったイノシシのステーキと、新鮮な野菜や果物が山のように盛られていた。すきっ腹な僕はそのどれもがたまらなく美味そうに見える。

 シェリルも目をキラキラと輝かせていた。スライムも野菜と果物に目がないようだ。


「なるほどね……そんなに激辛なソースがあるの?」

「はい、辛いのが苦手な人だとちょっぴり舐めただけでも、ヒリヒリするかもです」

「ドラゴンは辛いモノなんて食べないでしょうから、まったもんじゃなかったでしょうね。そのソースはもう持ってないの?」

「ええ、1本しか持ってなかったので……」

「あらそう、それは残念ねぇ……」


 動画の再生数さえ伸びてくれたらね。

 気になったので、アイポンで再生数を確認してみた。


 =異世界ヨーチューバー=

 チャンネル名:ゆうなまTV

 アカウントLv:1

 チャンネル登録者数:308

 投稿動画数:1

 獲得ポイント:1362P

 使用可能ポイント:462P


 =投稿動画リスト=

 ・とある道具で火をつけてみた:再生回数3621回

 

 昼頃に確認したときは再生回数が301回だったので10倍以上再生数が伸びている。

 急上昇動画の一番上になっていた。

 おかげで使用可能ポイントが332P加算され462Pになっていた。

 チャンネル登録者数も300人を超えている。

 デスソースも普通のなら700Pで交換できるので、明日の朝頃には再入手できそうな勢いでもある。

 

 が、それよりも……。


 シェリルとミレーユさんはホクホクジューシーなイノシシステーキを満足そうに食べているが、日本人の僕には味付けが微妙で物足りなく感じる。


 けしてマズイ訳ではない。

 けれども僕的には塩コショウだけの味付けは、素っ気ない。

 できればもっとコクのある美味いタレでステーキを満喫したい。


 玉ねぎ醤油味のステーキソースに目を付けた。

 交換ポイントは300Pでこれなら今あるポイントでもおつりがくる。

 シェリルやミレーユさんは、どんな反応をするのだろうか。

 そう思いアイテムボックスからステーキソースを取出す。


「これ、ステーキソースなんですけど、良かったらシェリルとミレーユさんも使ってみませんか? 今よりももっと美味しくなると思いますよ」

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