第5話「食べてみた系の動画を撮影した件」
2人がステーキソースをイノシシステーキにかける。
「とってもとっても美味しい!」
「あら、ほんとにとても美味しいわ。肉の臭みもまったく感じなくなちゃったわね」
シェリルとミレーユさんにも大好評だ。よかった。
僕も玉ねぎ醤油味のステーキソースをかけて一口パクッと食べてみる。
ジューシなステーキに醤油のコクと玉ねぎの甘みが絡みあって格段に美味くなってる。
「ユーキくん、このソース譲ってくれない? このソースがあったら商売繁盛間違いなしよ! もちろんタダでとは言わないわ。これ1枚で手を打たない?」
ミレーユさんの手には1枚の銀貨がある。
ラムレス侯爵から頂いた袋の中には金貨が10枚入ってたので、お金に困ることもない。
むしろタダで譲ってもいい。
「シェリルは白銀貨を見るの初めてです」
あれ銀貨じゃない? 白銀貨ってなんだろう。
「もしかしてユーキくんも白銀貨見るのは初めてなのかな?」
「はい、初めて拝見しました」
「この白銀貨1枚で大金貨10枚の価値があるのよ。白銀貨と同じ素材で作った武具もあるんだけど、それはもう途方もない価格よ」
ひょっとして白銀貨ってプラチナじゃなく、あの伝説の……。
ゲームで馴染み深い伝説のミスリル金属なのか?
「そうよ。ミスリル鉱石を貨幣にしたのが、この白銀貨なの」
お金の価値はともかく、そんな伝説の金属ってところに惹かれる。
それでも、今後もお世話になることだし「タダで譲ります」と伝えたのだが。
「いいのよ、ユーキくん。このお金があれば、シェリルちゃんだって危険な森に踏み込まなくてよくなるでしょ? お金はいくらあっても困ることはないんだから」
たしかにそうだ。ミレーユさんの言う通りだ。
「では、お言葉に甘えて頂きます」
「うん、交渉成立ね!」
「でも、ソースは使ったら直ぐになくなちゃいますよ?」
「いいのいいの。これとまったく同じ味を再現できるかわからないけど、少しでも近づけるものを作ってみせるわ」
瓶のラベルは大方の材料が記載されている。
ミレーユさんにはラベルの文字が読めないようだけど、僕が書いた文字は読めていた。
僕の言葉や書いた文字は、そのまま異世界で通用している。
逆に僕は異世界の言葉や文字も理解できる。
「ミレーユさん、紙とペン貸して頂けますか? その瓶にある程度のレシピが書いてあるんですよ」
「ユーキくん、この文字が読めるの?」
「はい」
大方のレシピを書き写して渡す。
玉ねぎ、醤油、酒、みりん、にんにく、しょうが、あらびき胡椒。
「これだけの情報があれば味がほんとに再現できそうだわ!」
ただ醤油とみりんが理解できないようだ。
醤油は大豆を醗酵、熟成させて造るもので、みりんの変わりに砂糖でもいいと伝えておいた。すると醤油に似たようなものがあるらしいので、それで試してみるとのことだ。
3人とペット1匹で盛り上がってると、女騎士に話しかけられた。
隣の席で、テーブルを囲っていた二人組の一人だ。
「失礼ながら、聞き耳を立てていた。そのソースをかけるとそんなに美味いのか?」
どこかで見た顔だ。思い出した。
赤スライムと格闘していた騎士の二人組だ。
「アリエッタさんにルークさんじゃないの。隣の席にいたのに全然気がつかなかったわ」
ミレーユさんが親しそうに話している。
話に聞くとミレーユさんはこの冒険者ギルドのマスターで、顔が広いようだ。
「私が怒鳴り過ぎてルークが凹んでしまった。できればそのソースでルークを元気にしてあげたい……少しだけでいい。分けてくれないか?」
ミレーユさんは快く承知した。そして更にミレーユさんは僕に提案してくれた。
「ユーキくんヨーチューバーでしょ。このステーキソースでステーキを食べてる動画を撮って投稿してみたら?」
「ほんといいんですか?」
そんな訳で、動画の撮影をアリエッタさんとルークさんも了承してくれた。
二人はやはり王国の騎士だった。王国の騎士や冒険者のギルドのマスターまで協力してくれるのは本当に嬉しい。
人気の動画になる気がするぞ!
アリエッタさんとルークさんの二人が美味しそうに食べてくれる。
僕はその様子を撮影する。
ルークさんは涙まで流して美味そうに食べてくれた。
最後にミレーユさんが、冒険者ギルドの宣伝をした。
このステーキソースの味が再現できたら、皆さんに報告し振舞うと。
ちゃっかり者なミレーユさんだった。
「実に美味しかった。元気だ出た。ミレーユさん、ユーキくん、ありがとう」
ルークさんが元気なった。
そんなルークさんを見て、アリエッタさんがクスッと微笑む。
「いえいえ、僕の方も助かりました。編集して、明日にでも投稿させて頂きます」
ミレーユさんもアリエッタさんもルークさんも、動画の投稿を楽しみにしてくれている。
シェリルも僕が喜んでる姿をみて嬉しそうに笑顔でいてくれてる。
野菜と果物の大半は、緑のスライムが平らげてしまっていた。
こりゃあ食費がバカにならないかもしれない……。
そして僕とシェリルは皆に挨拶を済ませ、冒険者ギルドを後にした。
みんな、気の良い人ばかりだった。
◆◆◆
外はすっかり暗くなり月明かりが優しく街を照らしていた。
シェリルはエルフだけに夜目が利くらしく歩くのに不自由しない。
僕の為に光の精霊を召喚し、道の先を照らしてくれた。
「ここがシェリルの家です」
広い庭に木造の家がポツンと立っていた。
庭には草花が植えてあり自然の香がする。
「お世話になります」
「いいの、ユーキがいてくれるとシェリルも嬉しいし安心できる」
小さい家なので部屋も広いとは言えない。
けれども部屋の中は綺麗に整頓されており、埃も無く清潔な印象を受けた。
キッチン、クローゼット、ベットに机と椅子がある。
光の精霊が部屋を明るく照らしてくれるので、夜目の効かない僕でも困ることはなさそうだ。
「ユーキ、自由にしてて」
「うん、ありがとう」
シェリルは桶を担いで何かやってる。
僕は椅子に腰かけ動画の編集作業に没頭する。
没頭してると、スライムが足元に擦り寄ってくる。
スライムはお腹いっぱいなのか眠ってしまったようだ。
「ユーキもふきふきする?」
なんのこっちゃと思い振り向く。
するとシェリルが上半身裸だった。
「ちょ……ちょっと、なにやってるの!」
「身体の汚れを落としてるんです」
「わ、わかるけど……」
「あんまりまじまじ見ないで、恥ずかしい……」
動画の編集に没頭し過ぎて全然気が付いてなかった。
よくよく考えると部屋も一つで、ベットも一つしかない。
この状況は誰得なの?
生唾飲みながらも、気を逸らそうと思いラムレス侯爵から頂いた金貨を袋から取り出す。
この世界の通貨の種類は元より、価値がピンとこない。
「この金貨は大金貨?」
「ううん、違う。それは普通の金貨」
シェリルの話によると、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大銀貨、白銀貨の7種類があるらしい。
それぞれが10倍の価値になっていくようだ。
僕の手持ちは金貨10枚と白銀貨1枚。
つまり大金貨1枚と白銀貨1枚の価値となる。
質素な暮らしなら大銀貨5枚もあれば十分らしい。
そこで勝手に想像を膨らましていく。
銅貨1枚を日本円の十円と換算すると、大銅貨が百円。
銀貨が千円で大銀貨が1万円って感じかな。
ヨーチューブのポイントは10ポイントで銅貨1枚に換金できる。
とりあえずこんな感じだ。
「ユーキもふきふきしなよ。スッキリして気持ちいいよ」
「う、うん。じゃあ僕もお言葉に甘えて……」
「シェリルがふきふきしてあげる!」
「だ、だいじょうぶっ! 自分でできる。ありがとう」
ぷくっと頬を不満げに膨らますシェリルだった。
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