第6話「シェリルの大切なものが消失した件」

 朝の陽射しで目が覚める。

 目が覚めるとシェリルが僕に抱きついて寝ていた。


 昨夜編集した動画は編集後に投稿しておいた。

 ミレーユさんやアリエッタさん、ルークさんも既に見てくれてるかもしれないなぁ……。


 って……どうして僕はベットで寝てるんだ?

 あ、そうだ。

 手拭いで身体を拭いた後、ベットにもたれてた。

 そこまでは何となく思い出せる。

 きっとそのまま寝入ってしまったんだろう。


 とりあえず、目覚めてないシェリルからそーっと離れていく。


「ふう……かなり焦ったな……」


 それにしても気持ち良さそうな寝顔で寝ているなあ……。

 とりあえず、アイポンで動画の再生数を確認しないとだ。


 =異世界ヨーチューバー=

 チャンネル名:ゆうなまTV

 アカウントLv:1

 チャンネル登録者数:2758

 投稿動画数:2

 獲得ポイント:4102P

 使用可能ポイント:3040P


 =投稿動画リスト=

 ・とある道具で火をつけてみた:再生回数19025回

 ・ステーキソースで食べる:再生回数12001回

 

 凄い! めっちゃ再生数が伸びてるぞ!

 チャンネルのフリートークの欄を見てみる。

 フリートークは動画ごとのコメントではなく、チャンネルそのものに書きこめる掲示板のようなものだ。


--


 17.マリシア@魔女っ子ちゃんねる

 ミレーユさんとお知り合いなんですね。

 私も冒険者なので定期的に訪れています。

 そのうちお会いできる日があると思います。

 その時はよろしくお願いしますね!


 18.ミレーユ@冒険者ギルドマスター

 あら、マリシアちゃんのコメントがあるじゃない?

 そうそうユーキくん、昨日はありがとうね!


 19.アリエッタ@騎士見習い

 昨夜のステーキソースは美味かったぞ!

 私はエルドーラ王国の見習い騎士だ。

 困ったことがあれば気軽に声をかけてくれ!

 以上だ。


 20.ルーク@騎士見習い

 どうも、ルークです。

 同じく騎士見習いをしてます。

 今後ともよろしく。


 21.ガラハウ@3番街の守護神

 よう! 無事に冒険者ギルドに辿りつけたようだな。

 名乗って無かったが街の守衛のガラハウだ。

 気が向いたら、いつでも声をかけてくれ。

 シェリルちゃんにもよろしくな!


--


 これは素直に嬉しいな。

 当初はどうなるかと思ったけど、チャンネル登録者数も激増してるし、異世界ヨーチューブ望むところだ!


「ユーキ、起きてるの?」

「おはよう、シェリル」

「うん、おはよう」


 朝陽を浴びながらシェリルが目を擦った。

 スライムも起きてるようでその辺をウロウロしている。


 僕の他にもスライムをペットにしてる人っていないのだろうか。


 ヨーチューブのトップページの動画検索欄に『スライム ペット』と入力。

 スライムが人に懐いてることにシェリルもミレーユさんも驚いていてたけど……。


 検索してもペットにしてる人なんてやっぱりいない。

 スライムの生態や対処法を紹介してる動画はあった。

 緑のスライムは草を食って生きてるらしい。

 また積極的に人を襲う事もないらしいが、人に懐くようなものでもなかった。


 ひょっとしてスライムをペットにしてるのは、この世界でも僕だけかもな。

 スライムに顔とかないけど、擦り寄ってきてる時は、つぶらな瞳で見つめられてるような視線を感じるぞ。

 とりあえず食費も少し心配だったけど、草食わせとけばOKだ。

 そろそろ朝食の支度でもしよう。ポイントも初期のボーナスの3倍あるし。


「シェリル、朝ご飯にしようか? って……あれ?」


 シェリルがいない。

 部屋を見渡すとスライムもいなかった。

 どこに行ったんだろう?

 

 バタンと勢いよく玄関の扉が開いた。

 飛び込んで来たのは涙目のシェリルだった。


「うわーん。ユーキ!」

「ど、どうしたの?」

「スライムたんが……」

「え?」


 まさかスライムが逃げちゃった?

 シェリルに引っ張られ外にでた。

 遠目に花壇のような場所があって、そこにスライムがいた。


「シェリルの薬草畑の薬草、1本も残ってない……全部食べられちゃったよ……」

「う、うん……草の根も無いって感じだね……」

「大切に育ててたのに……ぐすん」


 昨日からスライムもシェリルと一緒に暮らし始めたとはいえ、直接の飼い主は僕だ。

 なんとも心苦しい気持ちになって来た……。


「れれ?」

「ん? どうしたの?」

「なんかスライムがだんだん大きくなっていってるような気がするんだけど……」

「ほ、ほんとだね!」


 近くに寄ってみると、直径で1メートル弱ぐらいサイズまで成長してる。

 ほんのさっき部屋で見た時は昨夜と同じサイズだったんだけど……。

 これって、シェリルの育てた薬草をたらふく食ったから急成長したのでは? 

 まさかでかくなったことで、狂暴化してたりしないよな……。


 恐る恐る近づいていく。

 ペタっと触ってみた。相変わらず人懐っこく擦り寄ってくる。

 抱きついてみた。特に問題ない。乗ってみた。ヤバいかなり楽しい!

 うん、大丈夫。僕のペットの緑スライムだ。


「ユーキ、上に乗っても平気なの?」

「うん、なんだか滑り落ちないようにスライムが気配りしてくれてる気がする」

「シェリルも乗ってみたい」

「いいよ、おいで」


 二人でも余裕あるある、十分乗れる。

 

「よーし、スライム前進だ!」


 半分冗談で言ったつもりが僕の指示通り自由自在に動いてくれる。

 こ、これって……。スライムナイトみたいじゃん!

 スライムをこよなく愛する気持ちが伝わったに違いない。

 興奮が止まらない。最高の気分だ! 

 

「ユーキのことが大好きなんだね。シェリルと一緒」

「え? 今、なんか言った?」

「ううん。なんでもない……」


 スライムも僕達を乗せて嬉しそうだ。

 この光景こそがスライム動画の最終形態となるだろう。


「ユーキ、なんでスライムから降りた? もしかして動画撮るの?」

「うん、そうだよ」


 アイポンでシェリルが乗ってるスライムに照準を合わせる。


「待って! シェリルは動画にでるのは恥ずかしい」

「なら僕が乗るからシェリルに撮影お願いしてもいいかい?」

「もちろん!」


 アイポンをシェリルに渡して、スライムに乗る。

 これで剣と鎧まであったら、文句なしなんだけどな。


「ユーキ、OKだよ」

「撮影開始して!」

「わかった!」


 庭の中を適当に駆けずり回る。自己紹介や、演出は後で編集して付け足せばいい。

 

「良い感じに撮れてるね」

「うん。ユーキが教えてくれたから」


 シェリルは魔幻鏡を持っていない。

 世界的に一般層まで普及してるとは言っても、魔幻鏡の価格は安い物でも銀貨1枚はする。

 買う余裕がなかったみたいだ。


 シェリルが再度スライムに跨ってきた。

 このまま、動画編集をする。

 その様子をシェリルが隣で楽しそうに眺めているから。

 一昨日までは日本にいた。

 毎日ネタに追われ、撮影しては一人孤独に編集と投稿の繰り返し。

 元々、動画撮影が楽しく好きで始めたのに、気がつけば生活の為だけに動画の投稿をするようになってしまっていた。


 好きなことをやって好きな動画を撮る。

 僕のヨーチューバーの基本理念は楽しむことだ。

 すっかり忘れ去っていた。

 

「ねぇ、ユーキ。この子に名前つけてあげない?」

「いいね。でも……なかなか良い名が思い浮かばないんだ」

「思いついてから付けてあげたらいい」

「そうしよっか。それまではスライムたんだ。むしろスライムたんでよくない?」

「ユーキがそれでいいなら、シェリルはそれでいい」


 スライムを撫で撫でしながら宣言した。


「今日からお前の名はスライムたん、だ! ……(安易)」


 スライムたんがプルプルと震えるのだった。

 ひょっとして……適当なネーミング過ぎて、怒ってたりして!?


「やっぱり名前はちゃんと考えてから付けることにしよう」

「実はシェリルも今思い直してた」

「あはは、やっぱそうだよね……」


 ふと、気がつけば朝食も忘れ昼頃まで、スライムと遊んでいたのだった。

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