第7話「アカウントレベルが上がった件」
昼食はシェリルが手作りで作ってくれた。
庭の畑で収穫した薬草入りのじゃがいもスープで、食べてると力が漲ってくる不思議なスープだった。
理由を尋ねてみると精霊力を植物に与えて育ててるらしい。
ただ単に、水と肥料だけで育ててる訳じゃなかったのだ。
スライムが急成長したのも頷けた。
そして動画の再生数を確認しようとアイポンの画面を見た。
すると――――
『アカウントレベルが2になりました』
と、表示されていた。
ずっと気になっていた。
アカウントレベルって何だろうと。
ヘルプで調べてもアカウントレベルに関しては一切説明がなかったのだ。
更にポチっと画面をタップして進めてみる。
『チャンネル登録者数が3000人を突破しました』
ふむふむ、たしか今朝に確認した時は2700人ほどだった。
更にタップする。と、
『ステータス鑑定スキルを覚えました』
覚えるって誰が?
もう一度タップする。
【ステータス鑑定スキル】
・指定した人型生物のステータスを画面に表示させる機能。
使い方は簡単だった。
アイポンを鑑定したい人物に向けてタップするだけ。
早速、実験してみようと思う。
アイポンの先っちょを自分に向けて、画面の【鑑定】をタップ。
僕のステータスがアイポンの画面に表示された。
--
名前:小鳥遊悠生
レベル:1
天職:ヨーチューバー
職業:冒険者
種族:人族
HP:15/15
MP:0/0
腕力:10(+5)
耐久:15
敏捷:12
魔力:0
幸運:25
スキル:--
ユニークスキル:【アイポンGOD】【異空間ボックス】【ステータス鑑定】
--
これが僕のステータス(能力値)ってことなの?
動画の編集の合間に読んだことのあるネット小説で、この手のモノも読んだことあったけど……。魔力0ってひどくない?
勝手な予測だけど、魔法使いになれないってことじゃないの?
なんだかとても残念な気がしてきた。
スキルをタップすると更に説明が表示された。
【アイポンGOD】
・神様が授けた専用アイポンで『アナザーリスト』が使用可能となる。
・破壊不可能。
【異空間ボックス】
・アイテムを無制限に保管できる(時間停止機能付き)。
・『アナザーリスト』で交換したアイテムが自動収納される。
・生きている生物の出し入れは不可能。
【ステータス鑑定】
・指定した人型生物のステータスを画面に表示させる機能。
昼食のお片づけ中のシェリルにも向けてみた。
--
名前:シェリル
レベル:2
天職:精霊使い
職業:栽培師
種族:
HP:10/10
MP:35/35
腕力:4(+5)
耐久:10
敏捷:16
魔力:25
幸運:10
スキル:【植物活性】
ユニークスキル:【光の精霊】
--
これがシェリルのステータスなのか。
僕の腕力にも(+5)表示あったけど、これは薬草入りのスープを食べた影響なのかな? だったら時間制限ありそうだ。
【植物活性】
・植物の成長速度の促進。
・精霊使いの場合、精霊力を植物に与える。
【光の精霊】
・契約を交わした精霊である。
なるほど。そういや冒険者ギルドで貰ったギルドプレート。
アイテムボックスに保管したまんまだったな。
たしかプレートには冒険者と書かれていた。
「ユーキ、動画の調子いい? あれ? これって……シェリルの?」
シェリルが後ろから覗きこんでいた。
「アカウントレベルが上がったら、こんな機能が追加されてて! って……ごめん勝手に見ちゃって……」
「ううん、ユーキなら平気。全然構わない」
本来、己のステータスを確認したい場合は、冒険者ギルドにある水晶玉を触るらしい。
更にギルド登録した時点で誰もが最初は冒険者としてスタートするそうだ。
つまり今後の経験次第で、転職できる職業の幅が増えるそうだ。
と、なると。
レベルがあるならレベル上げをしたくなる。
いくら天職がヨーチューバーだからと言って、上げなくていい理由にはならない気がする。少しでも上げときたい。ペットのスライムよりは飼い主としての沽券を示す意味でも強くなりたい。
「シェリルはレベル2だけど、どうやって上げたの?」
「植物を種から育ててたら上がったんです」
話を聞くと気の長い話だった。
やはり動物や魔物を狩った方がレベルの上昇は断然早いようだ。
「ちょいと買い物にでも行かない?」
「どこにいくの?」
「武器屋とか?」
「3番街にとってもいい店がある」
「そこ案内して」
「うん、わかった」
庭にでた。
薬草畑の他にも農作物を植えてる場所があるので、スライムには勝手に食べないようにとしつけしておいたが、果たしてどうだろう。
おお、ちゃんと守ってるぞ。
「スライムに乗って行こうか?」
「街の人がびっくりしちゃう」
「それって守衛さんとか来て大騒ぎになちゃったりするのかな?」
「緑スライムだし、そうはならないと思う。たまに野良の緑スライムとか普通に街中でも見かける。あまり害がないから誰も見向きしない。でも、スライムに乗って目立つのは恥ずかしい」
目立つだけか……僕としては乗って行きたいけど、恥ずかしいって言われちゃうと無理強いできないなぁ……。
「ユーキは乗って行きたい?」
「う、うん。まあね……」と、答えながらポリポリと頬を掻いた。
「ならいい。スライムに乗っていこう」
「ほんと! 恥ずかしくないの?」
「恥ずかしい……でもユーキが喜ぶほうがシェリルはもっと嬉しい」
シェリルが颯爽とスライムに跨った。
短めのスカートがひらりとし白いふとももが、スライムにペタっと吸いつくように貼りついた。
恥ずかしいと言いながらもシェリルは自ら進んで前に跨った。
「シェリルが道案内します」
僕もシェリルの後ろに跨る。
シェリルの流れる銀髪から爽やかな香りが漂ってくる。
「ユーキ顔が赤い。どうしたの?」
「あ、いや、気にしないで……」
スライムに「シェリルの道案内通りに進むように」と、話しかける。
プルプル震えるが、先ほどとは微妙に震え方が違う。
たぶん、理解してくれたのだろう。
「スライムたん。よろしく」
シェリルの言葉でスライムが動きはじめる。
少しばかり縦揺れするけど、スムーズに移動していく。
ルドラの街の大通りは人も多いが、道幅が広く移動しやすい。
スライムに乗ってるのは、僕達だけだが馬の他にもダチョウ系の手綱を握っている者もいる。かと思えば、騎乗用の小型のドラゴンまでいる。多種多様だ。
またシェリルが言ってたように、めちゃくちゃ目立っている。
道行く人々が好奇の目で僕達へ振り向く。
中には茫然と見送るように佇んでいる人達もいる。
まあ正確には僕達やスライムが珍しいのではなく、スライムを乗り物にしてるのが珍しいのだろう。ってゆーか、他に誰もいないと思うし……。
そして――――こんな声も。
「おい、なんだれ? スライムに乗ってる奴がいるぞ?」
「スライムが人に懐くって話は聞いたことがないが、お前は知ってるか?」
「し、知る訳ねーだろ!」
こんな会話が耳の片隅に残響として残ったり……時には。
好奇心に駆られて街の子ども達がぺたぺたと触りに来る。
その都度愛想笑いを振りまく。
「ふう、思ったより気を使う……」
ポロっと愚痴を漏らした時、街の子ども達が嬉しいことを言ってくれた。
「兄ちゃん、ゆうなまTVの人だよね。スライムの動画見たよ。ほんとに懐いててびっくりしたよ。次の動画も楽しみにしてるよ。頑張ってね!」
ほんと愚痴ってすみません……。
そう言って微笑んでくれる子ども達の笑顔は最高だ。
それはヨーチューバーとして名利に尽きる。
子どもを○○して○○を稼ぐなんて、この世界ではこれっぽっちも思わない。
応援してくれる子ども達の為にも頑張るぞ。勇気を分けて貰った。
感謝しなくちゃな。
「ユーキ、あそこだよ」
店の看板がでていた。
その外観、不思議と見たことがある気がする。
そうだ思い出した。動画で見たのだ。
小太りのおっさん。
ドワーフのグリーバスの店だ。
「ここ3番街の有名店。きっと良い物がみつかる」
ショーウィンドウに武器や防具が飾られている。
そのどれもが素晴らしい輝きを放っていた。
僕とシェリルはスライムを降り、店の中へと入って行った。
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