終章 喜びの朝がはじまる

 ずーっと、ね。探していたのだと思う。

 この世で自分とだけピッタリ合う魂を持った人を、

 そして君と出会って、愛する意味を僕はしったんだ。

 愛は求めるものでもなく、与えるものでもない。

 本当の愛は混ざり合って、ひとつになることなんだって!

 そう。君こそが僕の探していた『運命の人』だから。


 ――昨夜から、しんしんと雪が降っていた。一晩で積った雪は街をすっかり雪景色に変えてしまった。陽の光が真っ白な雪に反射してキラキラと眩しい。


 僕と優衣は雪道をしっかりと手を繋いで歩いていた。

 降り積もった雪のせいか、道路は通行止めが多いため、今日は愛車のビートルは置いてきた。珍しく電車に乗って駅で降りて、こうして仲良く歩いているんだ。

 優衣が滑らないように、ちゃんとゴム長靴を履かせている。彼女のお腹の中には新しい生命が宿っていて、それは僕と優衣の大事な『愛の結晶』なのだ――。

 今日は妊婦の定期健診があるので、僕も病院に付き添ってきた。

「優衣の大事なところをお医者さんに診られるのは嫌だなぁー」

「おにいちゃんのエッチ!」

「もう、おにいちゃんじゃないだろ?」

 優衣の左の薬指には真新しいプラチナの指輪がはめられている。

 僕らは、優衣の二十歳はたちの誕生日に教会で結婚式を挙げた。あのダイヤモンドダストを見たホテルの近くの教会だった。ふたりは永遠の愛を誓い合って、優衣は僕の妻になった。

 ダイヤモンドダストを見た日から、一年の月日が流れていた。

 そして、来年には新しい家族も増える。ふたりで家庭を築き、子どもを育てていこう。小さな夢だけど、それが僕らの未来設計なんだ。そのステップを優衣と共に進んでいく――。

「赤ちゃんが産まれるまでは、おにいちゃんだからね」

「一度くらいは『圭祐けいすけさん』って、呼んで欲しいなぁー」

「そんなの恥ずかしいから、いやだよ!」

 繋いだ手をブラブラ振りながら、ふたりで笑った。


 ――あんなに暗かった優衣も、今では明るくなってよく笑うようになった。

 その後、優衣の父親は家を売って自分の郷里に帰ってしまったらしい。家族に酷いことをしたのだから、孤独な人生になってもしかたない。

 一年前までは父親の暴力に怯えて、小さくなっていた優衣……心の傷も癒えて、やっと本来の天真爛漫てんしんらんまんな性格が出てきたようだ。

 今では母親の綾子とも月に一、二度あって買い物や食事にいっている。綾子は崎山という青年の屋敷に住んでいるのだが、そこに涼子も引っ越してきて、今は三人で暮らしているらしい。綾子は「崎ちゃんも涼子さんも良い人だよ。ふたりはいずれ結婚して、グループホームを作るのが夢なんだよ」そんな話をしていた。

 涼子も崎山という青年と一緒に幸せを見つけたようだ。過去の経緯いきさつはどうあれ、かつて愛した女性が幸せになってくれたら、それは嬉しいことだ。人をゆるす心を持たぬ者には、本当の幸せを掴むことが出来ない、そう僕は思っているから――。

 だから、涼子にも幸せが訪れるように僕は祈っているんだ。


「優衣、圭祐さんのお嫁さんになれて……だよ」

 小さな声で優衣が呟いたが、肝心な言葉が聴こえてこない。聴こえなくたってわかっているさ。僕も同じ気持ちだから。大事な言葉はそっと胸の中に閉まっておこう。

「こんな可愛いお嫁さんがいて、もうすぐパパになる!」

 ありがとう、優衣。――君のお陰で僕は生きる喜びを感じているんだ。

 来年も、この道をベビーカー押して君と歩こう。人生という長い道のりを僕と一緒に歩いてくれるかい、君は一生の伴侶と決めた女性だから。



     【 しあわせ 】


   『 しあわせ 』って言葉を

   声にだしたら


   淡雪みたいに溶けちゃいそうで


   『 しあわせ 』って言葉を

   呑み込んで


   胸の中でぎゅっと抱きしめている


               優衣



 朝日が昇ると、また新しい一日が生まれる。

 ふたりで幾つもの朝と幾つもの夜を迎えることだろう。り返される日常は平凡でありきたりな生活かもしれないが、朝、君が起きると窓のカーテンをサッと開く、そこから眩しい光が差し込んでくる――それは喜びの朝のはじまりである。





                  ― 了 ―

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ダイヤモンドダスト 泡沫恋歌 @utakatarennka

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