第4話「夢の列車」

遊び疲れたスピカはご飯を食べ終わると、お箸を手に持ったまま、すこーと眠ってしまった。やれやれ仕方ないと言わんばかりに青年はスピカから箸を取り、抱き上げた。隣に寝室がある様子で、その寝室まで運んでいく。

青年の姿が見えなくなった瞬間、レイナが口を開いた。

「スピカを空に返したくない者の犯行よね」

「でも、街の人たちは『青年』の言葉を取り合わないはずだよ」

『青年』の残った『運命の書』にはそういう記述があった。

だから、誰もが彼が『空をかける乗り物』をつくれるとは思っていないのだ。

しかし、彼はそれを完成させる。どうやって完成させるのかは『失われたページ』にしか記載されてはいないが・・・。

「それなら、逆に考えたらどうだ?」

と、肉体労働派のタオが提案してくる。

「逆に考える?」

「だから、帰りたくないってことだ。あのスピカって娘がページを奪って、夜空に帰ることを拒否しているってことだ」

そのタオの考えに真っ先に噛み付いたのはレイナだった。

「それはないわ!あんなに夜空のことや自分の兄弟のことを楽しげに語っていたのに帰りたくないって言うのはおかしな話だわ」

「じゃあ、青年の方だ。何か問題があって、スピカを返したくないとか」

これについては僕が異を唱える。

「それはないよ。それならスピカを養う必要も『空を飛ぶ乗り物』を作る必要もない」

と、僕たちが言い争っていると、丁度、青年がスピカを寝かしつけて隣の部屋から出てきたのだった。

青年は僕らの言い争いに関わってはいけないと感じたのか。

「ごめんね。もしかして、僕がいたらいけなかった?」

レイナは慌てて取り繕って言った。

「ううん。そんなことないわっていうか、ここは貴方のお家じゃない。私たちのほうこそ押しかけて、言い争いなんてしていてごめんなさいね」

押し黙る一同。とにかく、この重苦しい雰囲気を払拭したくて、僕は提案した。

「そ、そうだ、君が作ってる『空を飛ぶ乗り物』を見せてもらえないかな?」

青年もこの空気を払拭したいらしく、少し引きつった笑顔をくれた。

「あ、ああ、いいよ。こっちで作ってるんだ、案内するよ」

そう言って、青年はキッチンの裏の戸口を案内してくれる。

しかし、レイナとタオは依然としてにらみ合いをしている。

青年が案内してくれた先には大きなビニールハウスがあり、その中には大きな機械が鎮座していた。元々は畑か何かだったらしく、土がやけに柔らかい。

「これが僕の作っている『空飛ぶ列車』だよ!」

そう言って、嬉しそうに彼は言った。

やっぱり、そんな彼がわざわざ自分のページを切り取り、助けまで求めるだろうか。おかしい。

シェインが興味津津に機械に近寄り、あちこちと触っていたが、やがてふと思いついたように言った。

「あの~、これって一体、何を燃料に動くのですか?」

確かに最もな質問だ。これだけ大きなものを動かすだけでも大変だというのに、空に浮かばせるというのだから。ピーターパンの妖精が何匹必要だろうかと、つい想像してしまう。

青年は困ったようにシェインに返した。

「それが、僕の『運命の書』に載っていたはずなんですが、切り取られたページと共に思い出せなくなってしまって・・・」

全員があちゃーという顔をしてしまった。

せっかく、こんな大きな乗り物を作ったというのに、燃料がないのでは話にならない。動かないのではただの置物とそう変わらないのだから・・・

青年は取り繕うように言った。

「あ、でもでも、もうこれは完成しているんですよ。後はなくなってしまった『ページ』さえあれば、これを動かすことができるんです!」

「なるほど、その重要な『ページ』がないと・・・」

と、シェインが痛いところをついた。青年はがくっと肩を落とす。

「そうなんです・・・」

レイナが思いついたように青年に向かって聞いた。

「待ってよ、じゃあ、『ページ』があった事だけは確かなのね」

「はい」

「じゃあ、いつ、無いことに気がついたの?」

青年は言いにくそうに口を開いた。

「それが・・・、夜更けまでここで作業して、列車が完成して、そのまま眠ってしまったんです。それで、起きたら切り取られていて・・・」

シェインがうんうんと頷きながら口を開く。

「なるほど、なるほど、こんな警備体制ザルなビニールハウスなら誰でも『ページ』を盗めますね」

「そうなんです。でも、僕の『運命の書』の『ページ』なんて盗んで何をする気なんでしょうか?」

「まあ、それは『カオステラー』に聞いてみないことにはわからないわね」

といいながら、レイナが大きなあくびをした。

もう、かなりの夜もふけている。そろそろ、眠気が僕たちを襲い始めていた。

気をきかせた青年が先ほどのキッチンのある部屋へと案内すると、人数分の毛布を出してくれた。

「寝苦しいかもしれませんが、外よりは安全だと思います。よかったら、そこのソファーと毛布で眠ってください。玄関と裏口はきちんと錠をかけておきましたから、僕のように『ページ』を盗まれることはないと思います」

そう言って、彼はあのビニールハウスへと向かってしまった。

思い出せない『燃料』を彼なりに探している様子だった。


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