第3話「おちた星」

青年の家の前につくと、彼は鍵も取り出さず、ドアを開けた。

いくら田舎の村だとはいえ、ちょっとモノグサだなと思っていたら、家の中には留守番がいたのだ。

お留守番をしていたのは、小さな少女で、白い簡素なスカートがよく似合っていた。彼女はぷくーっと頬を膨らませて怒っている。

「何してたのよ!?遅いじゃない!」

「ごめん、ごめん」

面食らった僕たちは青年に彼女の事を聞くことにした。

「あの・・・失礼だけど、彼女は?」

「ああ、彼女はスピカ。お星様なんだ」

お姫様という名称は聞いたことがあるが、お星様という名称は初めて聞いた。

思わず僕は聞き間違いかと思って、青年と少女を見ながら、問うた。

「え!?え?おほ、お星様って空にある星の事!?」

その反応に、青年はクスクスと笑って答えた。

「うん。あの空から落ちてしまったから、僕は『空を走る列車』を作って、彼女を空へと送り届けようとしているんだ。ああ、あとで『空を走る列車』を見ないかい?まだ作りかけなんだけど・・・」

「うん、ぜひ見せてほしい」

そんな僕たちの会話を聞いていたのか、横からシェインが割り込んでくる。

「シェインも気になります」

気を悪くしたふうでもなく青年は快く「いいよ」と笑いながら、キッチンへと向かっていく。どうやら、スピカという少女を含めた全員の食事を用意するみたいだ。6人分の食事ともなると大変で、たくさんの野菜を青年はテキパキと切り始めた。

見かねた僕は彼の隣に達、手伝いを申し出た。

「手伝うよ。僕でよかったらだけど・・・」

「ありがとう。それじゃあ、そこの人参を切ってもらっていい?」

「いいよ。半月きりでいいかな?」

「うん」

そんなやり取りをしていると、キッチンカウンターから見えるリビングでスピカとレイナ達が楽しそうに話をしている姿が見えた。

スピカはぴょんぴょんとソファーを飛び回って言った。

「こうして、お空の星たちは夜を追い掛け回しているの。私もはやく、夜さんを追いかけなきゃいけないのよね~」

珍しく、スピカはレイナやシェインに懐いていた。

「そっか~、スピカちゃんはお星様だもんね。ねえ、お星様から私たちって見えるの?」

スピカはしばらく考えた後、レイナに質問で返した。

「じゃあ、人間さんは私たちのお顔が見える?」

「見えないわね」

「それと一緒で、スピカ達も人間さんの存在は見えるけど、どんな人がいるのかなんてわからないの。でも、落ちて初めて知ったわ。人間さんはとってもすごいのね、特にあの人は凄いの!」

スピカは嬉しそうにそう言った。

「あの人って『青年』の事?」

「そう。この『世界』じゃ、名前もないような『端役』なのに、『空を飛ぶ列車』なんか作ろうとしているんだもん」

レイナもそれに同意する。

「そうね。私も夜空を飛ぶ乗り物なんて想像がつかないわ」

スピカはどうやら、青年のページが盗まれた事を知らない様子だった。

僕はこっそり隣で大根を切っていた青年に聞いた。

「ねえ、スピカちゃんは君の『運命の書』のページがないことをしらないの?」

青年は酷く落ち込んだ顔で言った。

「ええ。だって、その列車が完成したらスピカを乗せてあげて、彼女を夜空に返すことになっているようなんです・・・」

「ん!?」

僕は違和感を覚えた。さっき、僕たちが聞いた時はページの先は知らないと言っていたのに、今は切り取られた先を知っている様子だ。

「ページの先を知らないんじゃないの?」

「ああ、『僕』の先は知らないんですけど、『スピカ』の『運命の書』の内容は教えてもらったんですよ。そしたら、僕は彼女を夜空に返す為に列車を完成させるらしいんです」

なるほど。納得した。けれど、それなら、スピカを夜空に返したくない誰かの仕業になる。

僕は切り終わった人参をボールに移して、次に豚肉を切り始める。

なんとなく、青年が何を作ろうとしているのか分かったからだ。

青年は驚いて、口を開いた。

「なんで、豚汁作ろうって思ったのわかったんですか?」

「僕も豚汁が好きだし、材料からなんとなくね・・・」

と答えると、彼は納得してようで、ボールに移した人参と先ほど切っていた大根を鍋に入れる。


しばらく、僕&青年、レイナ達&スピカ組の会話が弾む。一人、のけものにされたようなタオはふてくされたようにソファーに座って、窓の外を眺めていた。

しかし、いい匂いが室内に立ち込めると、みんながこちらを期待に満ちた目で見始めた。

ああ。そんなに大したもの作ってないんだけどな・・・。

そう思った僕の横で、戸棚から作り置きの料理を青年がとりだす。

良かった。これで、豚汁だけだと僕と青年は皆からどんな目を向かられるか・・・。

ちなみに、青年が戸棚から取り出したのは、鳥の肉を焼いたものだった。傍らには野菜もちゃんと添えてある。

「さあ、スピカ、食事にするから机をかたして」

「はーい」

スピカは素直に従うと、テーブルにあったクレヨンや画用紙を『おどうぐばこ』に乱雑にかたした。テーブルがすっかり綺麗になると、僕と青年はご飯と豚汁、戸棚に用意された料理を並べた。

並べ終わると、僕たちもテーブルについて、箸を取る。

「それじゃあ、いただきます」

「「いただきます!」」

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