第2話「消えたページ」

僕たちは真っ白な霧の中を抜けて、次の『想区』へとやってきた。

霧を抜けると、広々とした草原になっていて、夜空がよく見えた。

頭上を見上げれば、満点の星空が広がっていて、思わず見上げる。

夜空を見上げ、レイナが感嘆の声を漏らした。

「うわー、素敵~」

シェインも同様に夜空を見上げて「ほう・・・」と見とれている。

別段、星空に興味もなさそうなタオでさえ、その星空を見上げている。

僕も同じように夜空を見上げる。

今まで見てきた、どんな「想区』の星空より綺麗で、僕らは、思わずぼーっと夜空を見上げてしまっていた。

ここには『カオステラー』や『ヴィラン』が潜んでいることも忘れて・・・。

「くるるる・・・」

すると、まるで、存在を忘れるなとばかりに、聴き慣れたヴィランの声が聞こえてきた。

レイナもシェインもタオも夜空を見上げるのをやめて、地上の邪魔者へと視線をおとす。

「ったく、こんなロマンチックな雰囲気を邪魔するなんて・・・」

とレイナが怒りの表情でヴィランを睨みつけた。

「同感です。少しは空気を読んでほしいものです・・・」

シェインも同意しながら、『導きの栞』を構えた。

僕も慌てて『導きの栞』を構える。


【戦闘:ヴィラン】


『ヴィラン』というのは、『カオステラー』によって生み出された、元この『想区』の住人である。『カオステラー』とは元々の物語を歪めて、やがて壊してしまう存在だ。僕たちは、そんな『カオステラー』を倒し、『調律』という儀式を行って元の物語に戻す・・・。という旅を続けている。


「ふう・・・。ロマンチックを台無しにしたバツよ」

そう言って、レイナは最後の一匹を倒して、満足したように笑った。

「とにかく、人を探しましょう。ここがどんな『想区』なのか調べる必要があるわ」

ヴィラン達を倒した僕たちはとにかく、ここがどこなのか、どんな物語なのかを調べるべく、人を探そうと歩きだした。

その途端、がざっと草むらが動いた。

「おい!そこに誰かいるのか!?」

タオがドスの聞いた声で草むらに向かって言い放った。

草むらから、おずおずと一人の青年がでてきた。

ヴィランでもなければ、特別に特徴のある顔立ちをしているわけでもない青年だ。

青年はビクビクと震えながら、両手を上げて敵意がないことを示した。

「ちょっと、タオ、脅かしすぎ!」

レイナがタオの行き過ぎた発言に注意を促す。

そんな様子を見ていた青年はわあああっと泣き出して、何故か僕に抱きついてきた。まあ、確かにこのメンツの中では一番僕が弱そうではあるけれど・・・。

「お願いします!助けてください!」

青年はそう言って、自分の『運命の書』を差し出してこう言った。

「僕の『運命の書』のページが盗まれてしまったんです!」

「「ええ!?」」


僕たちは生まれた時に一冊の本を貰い受ける。それが『運命の書』だ。その『運命の書』にはこれからの人生、どんな役割なのか、どんな運命が待っているのか、全てが記載されている。しかし、僕たちのように希に『運命の書』が真っ白な『空白の書』の持ち主が現れる。僕たちは『空白の書』と『導きの栞』によって無敵のヒーローに変身することができる。


彼は草むらから僕たちが変身して戦うところを見ていて、僕たちならなんとかできるのではないかとお願いをしてきたらしい。

レイナが青年から『運命の書』を受け取り、中身を確認する。

僕たちもレイナの横から彼の『運命の書』をのぞき見する。

確かに、途中から『運命の書』が切りとられ、最後のページまでなくなっている。

レイナは軽くため息をついて言った。

「あなた、『運命の書』のなくなったページの部分を覚えている?」

青年はバツの悪そうな顔をして口を開いた。

「それが、確かに読んでいたのに、まったく記憶がないんです」

「じゃあ、とりあえず、この残ったページとおりに運命は動いているのね?」

「はい。一応。でも、最後のページないので、ここで止まったままなのです」

そう言って、青年は『運命の書』の一文をさした。

『夜空を駆ける列車をやっと』の部分だった。

それ以降は切り取られてしまっている。

「姉御、もしかして、この「やっと」というのは、「やっと完成させました」なんじゃないですか?」

シェインの意見に同意してレイナもそう言う。

「そうよね。お話の流れから、「やっと完成させました」が妥当よね。ってことは、誰かあなたの『空を飛ぶ乗り物』を完成させたくない人物がいるってことね」

しかし、青年は「う~ん」と悩んで言った。

「馬鹿にする人はいても、完成させたくない人なんかいたかなぁ」

青年が首を傾げて悩んでいると、一陣の冷たい夜風が吹き付けた。

「うう。寒いわ・・・」

「すみません、配慮が足りなくて。とにかく、僕の家に来ませんか?雨風程度、しのぐことはできますよ」

そう言ってもらったので、僕たちは青年の家へとお邪魔することになった。

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