SF恋愛小説……といっては語弊があるかもしれません。
う~ん。SF青春小説でしょうか。
未来のお話です。テクノロジーは私達の知っているものを少し残した程度で文化や習慣はかけ離れています。マクロな世界観の中でミクロな個人的感情を表現された作品でした。
コンピューターが管理する平和な世界。
争いもなく、人々は平和に生きることが出来る世界。
幸せとは? 幸福とはなんだろうか?
読み手を刺激するフレーズの数々を優しく面白く表現しており、ストレスなく読み進めることが出来るでしょう。決して説教臭くなく、訴え掛ける作者さまの巧みな構成と文章。楽しい会話の中に潜む怪しい雰囲気。少ない登場人物から生み出される物語進行はテンポよくのめり込みました。
簡潔で無駄のない未来描写に、想像力を掻き立てる新文明システム。未来の常識が楽しく一気読みしてしまいます。
例えカラクリに気付いてしまっても、結末が気になってしまうことは保障致します。
アっというまに読めてしまうのに、内容は濃く読後感も最高の作品でした。
一級品のおすすめの傑作です。
どうぞ、楽しい読書時間に読んでみては如何でしょうか?
もちろん善良なる読者である私に言わせれば、完璧な小説投稿サイトであるカクヨムには名作しか存在しないわけなのですが。
その中でもこの作品は、ライトノベル版ディストピアとしては教科書にしたい作品だと思います。
paranoiaとbrave new worldをオマージュしているという情報が出ている以上、読む側としては十分覚悟して読んでいるはずなので、人によっては話自体に虚を突かれるほどではないでしょう。
それでもこの作品のライトノベルとしての完成度。つまりディストピア世界観をライトノベル的に咀嚼し、そこでボーイミーツガールをしてオチまで持っていくストーリーラインの組み立て。その料理の巧みさが勉強になりました。
ディストピア世界のライトノベルを書くなら、一度読んでおきたい作品と思います。
管理社会に生きる人間が外乱の影響で現状に違和感を持ち始める。話自体はディストピア小説の王道展開です。そしてこれまたディストピア小説の王道として、その過程には言い知れぬ不安感がつきまといます。このままで終わるわけがない。必ず何かあるはず。その予感は最後、的中します。
しかしこの小説が独特なのはここから。不安は的中するのですが、その結末は解釈の難しいものになります。作中で何度もコンピューターが問いかけてくるように「幸福」と言ってよいものなのか、あるいはそうではないのか。ディストピア小説は「人間にとって幸福とは何か」というテーマを本質的に絶対避けられないのですが、本作は「ディストピアにとって幸福とは何か」という領域まで踏み込んでおり、ゆえに明確な答えを出すのが難しい。ただ主人公の少年が「幸福」であることを願うしかない。そういう小説です。
ネタバレなしで魅力を語るのは難しいので、とりあえず読んで下さい。ディストピア世界の無機質さと外乱として登場した少女の快活さも良く書けている、味のあるSF小説です。