11 その座布団はちびっこ専用だ(珠州)

 その日の午後おそく、ソナエの部屋を訪れたヨシミは、ソナエの知らない配下の者を引き連れていた。

「公務として部屋を検めさせていただきたい」と、ヨシミは言った。

「それは残念。友として来られたのなら茶の一杯も出そうかと思ったが。まあ腰掛けな」と、ソナエは2脚ある椅子の片方を、腰あて座布団とともにヨシミにすすめた。

「相変わらず、紙ばかりだな。あとは情報機器か」

「食料は下の店へ行って、噂話とともに集めればいい。そうでもしないと、一日中紙の山と格闘する羽目になる。そうだ、南方から取り寄せた豆類の絞り汁を馳走しよう。苦くて頭が冴えて集中できる。ああ、糖もここにあることはあるが…使ってないので湿気を吸い込んで固まってしまってるな。しかし、ヨシミはまだ趣向が幼児期のままだから、苦すぎるのは不得手かな」

 ソナエは部屋を調べはじめたヨシミの部下をほぼ無視して、湯を沸かし、食器を揃えた。

 二人は顔なじみになって久しく、十日に一度は会って情報交換をしていたが、確かにヨシミは初めて会ったときから成長しているようには、ソナエには見えなかった。

「隠し事などはないので、はっきりおれに聞いてみないか、ちびっこ名探偵」と、ソナエは言った。

「この体は自然な成長に任せているからではなく、主の判断だからと言ってるだろう。…つい先ほど、わが王の王であるタクミ氏が暗殺者によって浄化された」

「ああ、ひょっとしてその下手人に覚えがないか、ということか」

「真の下手人探しは、上層部の指令により慎重に行なうことになった。実は、その直後、タクミ氏の血を継ぐ、氏の次男であるサダメ氏の行方が不明になったのだ。これについては初耳か」

「いや、そんなことはないよ。つい少し前、お前と仲良しのカナタが、その椅子に掛けて教えてくれた。タクミ氏の長男が通う大学筋から得た情報だろうな」

 ヨシミは赤くなって椅子から立ち、座布団を叩いて裏返しにしたので、ソナエは苦笑した。

「その座布団はカナタにはあてがってない。ちびっこ専用だ」

「むう…なら、あたしが聞きたいこともわかっているな」

「サダメ氏の行方に心当たりはないか、か。カナタは有益な助言をした。氏の行方に関しては、知っていても誰にも話すな、と。公権力の強引な聞き取りがあるようなら、我の主から話が行くことになるだろう、と」

 ヨシミは床に座布団を叩きつけて、足で踏みつけた。

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珠須録記(ずすろくき)1 暗黒の鼓手 るきのるき @sandletter

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