陰と陽が織り成す異世界ファンタジー。10万字に凝縮された衝撃に震えろ!

最初にカテゴライズしてしまうと、ベースはいわゆる異世界転移系ファンタジーです。
導入部から中盤辺りにかけての物語の盛り上げ方とか、テンポのいい文体とか、近年のWeb小説で好まれるフォーマットが非常によく研究されていると思います。
読みやすくて、ストーリー展開も早いし、全体的に可愛い女の子キャラが多めで、異世界モノが好きな男性の読み手であれば、10万字がスイスイと読み終わってしまうでしょう。

ちょっと特徴的なのは、コウ&ユメという、男女のW主人公的なキャラ配置が成されていること、特に男主人公のコウは成人済みのキャラで、異世界転移以前から文武に人並み以上の能力を有していること、またいわゆるヒーロー物っぽいノリや要素が所々に取り入れられていることでしょうか。

……とはいえこの小説、個人的には読みはじめた当初と、読み終えてからの読後で、10万字という文字数から伝わる印象が、まったく異なるものになりました。
最初は「軽くて読みやすい10万字」だった物語が、最後は「高密度で忘れ難い10万字」になっています。
どういうことか? こればかりは実際に本編を読んで察してくれ、としか言いようがありません。
そして、すべての真相が明かされたとき、色々な部分がすとんと腑に落ち、衝撃と共に大きな納得感が得られると思います。

一応、私も過去に何度か異世界ファンタジーには挑戦した経験があるのですが、この種の物語はいいオチを付けて適切な分量で完結させることが、本当に難しい。
ましてや、戦争みたいなスケールの大きな展開を扱う内容だと尚更です。
そういった部分も含めて、ターゲット読者を巧みに引き込みつつ、おそらく作者さん自身が書きたかったのであろう要素も盛り込み、大変洗練されたカタチで完成された一作だと思いました。お見事です。

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