第8話 その2

 珠美さんがトイレから出てきました。


 テーブルについたかと思うと、ごろんと横に倒れました。さすがに疲れたのでしょう。


「出前でもとりますか」


「そんなお金ないじゃない。節約しなくちゃ」


「じゃあ、後でお惣菜でも買いに行きましょう」


「そうね」


 珠美さんは、カーペットの上でごろごろと転がっています。うーん、うーんと言いながら、「ま、いっか」とつぶやきました。


 そうですね、「ま、いっか」なんだと思いますよ。


 それはそれとして。


 爺神様から聞いたイザナギの話を、僕は珠美さんに伝えるべきなのでしょうか。


 かつて愛する妻を亡くし、取り戻すために黄泉の国までいった、ローレンシアの古き神のことを。


 神の世界の話ではありますが、あちらの世界には、死んだ恋人を取り戻しに行ける国があるかもしれないということを。


 それは救済かもしれないし、地獄への扉かもしれません。


 だから僕は、人間にこの話を伝えることに躊躇してしまいます。


 神である僕は、まだ人間との距離の取り方が分かっていないのかもしれませんね。


 やれやれ。


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勇者な彼女がトイレから出てきません。 木本雅彦 @kmtmshk

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