第9話 それではそれでは、珠美さん

第9話 その1

 どっちもこっちも、応援もこないし、戦ったら消耗するだけだし。


 そうなると停戦するしかありません。ある種の極限状態です。だって、どちらも身動きがとれないのですから。


 極限状態に閉じ込められると、もう停戦したんだし、仲良くなるくらいしかすることないじゃん? ってことになります。そんな流れで、ローレンシア騎士団とゴンドワナ軍とで、合同のバーベキューとかダンスパーティーとか球技大会とかが開催されました。


「ビッグマウスが悪かったってのはある。だがあいつはもういない」


 というところが、妥協点のひとつになったという部分はあります。


 臭い物には蓋な感じもしますが。


 珠美さんはイベントの類に積極的に参加することはありませんでしたが、みんなが楽しそうにしているのを遠くから笑って見ていました。笑えるようになったことは、とてもよいことだと思います。


 その後しばくして、橋の修復と、崖崩れの撤去工事が終わり、増援がようやくやってくるぞとなってきたくらいになると、いやもう増援とかいいから国に帰りたいという気分に双方ともなっていました。


 戦争のことは、この場で既に話がついたので、撤収撤収、みたいな。


 かくして、激しい戦場となった山岳地帯の一角は、ただの荒れ野となって残ることになったのでした。




 ローレンシアの騎士団を、国民が、そして皇女陛下が迎えました。もしかすると大臣の中には、何故勝ちもせずに帰ってきたのかと思っている人がいたかもしれませんが、痛々しくも失った部隊長ショーン・チェックの左腕を見れば、そんなことを言うことはできなかったでしょう。


 皇女陛下は言いました。


「ローレンシアとゴンドワナは、かつてのバランスの拮抗を取り戻した。これがあるべき姿である。騎士団の働き、感謝する」


 騎士団は最敬礼をし、皇女陛下を讃えました。


 だけど神である僕は知っています。皇女陛下を讃えてはいるけれど、一番大変だったのは、現場の騎士団で、賞賛されるべきはそれぞれの騎士です。


 本当に大変だったなと、思います。


 ふたつの大国による全面的な戦争から抜けなくなる前に収束をみたこの戦いは、こうして幕を閉じました。




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