第2話

春の七草を知らない。

でも最近の寒さを忘れたようにこうも暖かい日が続けば、名前も知らない花が咲く。

白い花弁に思うこともなく、私は足の裏にある石の感覚に嫌気がさしていた。

「お父さん、掃除しますね。」

今日は誰かの命日らしい。

確かではないけど。

そう言って名前も知らない老婆が墓石に水をやる。

私もお墓の前に立っていた。

黒く厳かにそこに腰を下ろした石には、私の友人の苗字と、少しあけて家と書いてある。

この黒の石と白い刻印とのコントラストがどこか物憂げで、日本人の慎ましさを感じたりはしないだろうか。

「遅くなって、ごめんね。紗希。」

胸に去来する万感の気持ちを、表現する言葉を知らない私はそう言って静かに目を閉じ、手のひらを合わせた。

思えば、いや、思わなくても此処に来るのが遅すぎた。

たくさん謝らなきゃいけないことがある。

感謝をしなければいけないことはそれよりもある。

そんな気持ちと混じり合って私はそのまま思い出すのだ。

早川家の墓前。


あれは、二年前の、高校生最後の冬だった。

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