第3話 僕に救いをくれる人たち

「広?」


 気が付くと、竹本たちが心配そうにこちらを見ていた。


「思い出したって本当?」


 瀬古先生が心配しつつ訊いてくる。


「はい、声が、聞こえて、やられてて、なんか……助けなきゃって思って……」

「普段のお前だったら逃げそうなのにな」


 竹本が真っすぐに僕を見て言った。その視線がなにか見透かそうとしているように思えて僕は思わず目を逸らした。だが、すこしだけ話したくなって、口を開く。


「……あの、昔、いろいろあって……殴るのも殴られるのも嫌なんだよ。見過ごすのも嫌だっただけだ」


 カッコつけすぎた気もするが、今はこんな言い方しかできなかった。すると、三田君が顔を上げた。


「僕は、広先輩はすごいと思います。思ってても実際にはなかなかできることじゃないし……広先輩は僕のヒーローです」

「あ、ありがとう」

「なんかダジャレみたいだね」


 梅沢が空気を読まないで口走った。竹本が無言で梅沢を小突くが、三田君の顔はすでに真っ赤に染まっている。


「ね、ねぇ、松井君。結局、記憶喪失になった原因は何だったの?」


 瀬古先生が無理矢理話題を変えさせるように僕に訊いてくる。急に話を振られて若干焦り、えっと、とつぶやきながらも、頭の中で思考を巡らせてから、静かに答えた。


「たぶん俺の精神的ショックもあったんだと思いますけど、直接的な原因は……先生の顔面キックです」

「ええ!?」


 瀬古先生は誰よりも大きな声で驚きの声を上げる。


「ごめん! あれは事故だったのよ」


 申し訳なさそうに謝る瀬古先生を前に、僕は「大丈夫です」と言って快く許した。


「じゃっ、帰りますか」


 竹本が入口に向かって歩きながら僕らを促す。梅沢は「おう!」と言って、その後に続き、僕もベッドから降りて二人の後を追った。そして、後ろにいた三田君に呼び掛ける。


「三田君も一緒に行く?」


 三田君は呼ばれると、笑顔で「はい!」と答えた。その笑顔が、なんだか彼に似ているような気がした。






 僕らは保健室を出て、すっかり陽が沈んだ廊下を横並びに歩いていた。ふいに鼻孔にカレーの匂いが広がる。じっくり焼かれた肉の香ばしい香りの余韻が空腹を刺激する。僕はぽつりとつぶいた。


「さっ、帰ってカレー食べるか」

「またカレーかよ」

「このカレー星人」

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カレーの事情 森山 満穂 @htm753

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