シン・タイソウ

RAY

シン・タイソウ

「よぉ~し! 1回で終わるからな!」


 朝礼台に上がった主幹教諭は、体操服姿の生徒約500人を前に文字通りので言い放った。


 ―― おい、またかよ ――

 ―― いい加減にして欲しいね ――


 主幹教諭の一言にあちこちから声があがる。

 高学年からだけではない。低学年からも声はあがっている。


 それは、学校に対する不信感が具現化したもの。

 学校のやり方に対する、深い猜疑心の現れ。


 これまで何度同じ手にかわからない。

 練習が1回で終わったことなど、あったためしがない。


「8人が列を乱していたぞ! もう1回だ!」

「5人がふらふら歩いてたぞ! もう1回だ!」

「2人が無駄話をしていたぞ! もう1回だ!」


 いつもそれらしい理由をつけて練習は引き延ばされる。


「よぉ~し! 今度は上手くできた! 今日の練習はこれで終わりだ!」


 形だけのお褒めの言葉が発せられた瞬間、授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

 幼稚園児でも騙されないような、見え見えの時間合わせ。

 生徒の気持ちをもてあそぶ、悪意に満ちた嘘八百。

 モチベーション向上という大義名分を掲げた、偽りの教育方針。


 3週間後に迫った大運動会のマスゲームの全体練習。

 9月に入ってこれで4回目となるが、いつも同じ台詞で踊らされてきた。


 ―― これじゃあ、犬畜生と何も変わらない ――


 やり場のない怒りをくすぶらせる生徒は1人や2人ではなかった。


★★

「みんな! これでいいのか? 何かおかしくないか? ボクはおかしいと思う!」


 不意に6年生の1人がこぶしを突き上げる。

 すると、それが何かの合図であるかのように、次々に同様の声があがる。


 ―― うっそつき! うっそつき! うっそつき! うっそつき! うっそつき! ――


 数秒後には運動場にシュプレヒコールの嵐が吹き荒れる。

 生徒全員がこぶしを突き上げ、学校側のやり方に異議を唱える。


「やめろ! やめろったらやめろ! こんなことしてタダで済むと思ってるのか!」


 学校の威厳を保つため、主幹教諭の口から威嚇を込めた暴言が吐き出される。

 しかし、その一言がかえって生徒たちの闘争心に火を点けた。


「みんな! をやろう! 徹底的にやってやろうぜ!」


―― おおーっ!!! ――


 リーダー格の6年生の言葉に生徒たちはこぞって賛同の意を示す。


 学校側の暴挙に対して、生徒たちは果敢に立ち上がった。

 もしかすると「立ち上がった」という表現は正確ではないのかもしれない。


 ただ、全員の気持ちが1つとなって、学校側へ行動を起こしたという意味では「立ち上がった」ことに他ならない。


 彼らは、で立ち上がったのだ。

















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 シン・タイソウ座り


 ※一部地域では呼び名が異なります。



 RAY

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シン・タイソウ RAY @MIDNIGHT_RAY

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