死ぬために廃ビルの屋上を目指したロルフ。
そこにいたのは、死体をオブジェのように飾り立てた殺しリグ。
殺してくれ。というロルフの願いをリグは断る。
そこからロルフとリグの奇妙な関係が始まった。
ロルフがなぜ死体になろうとしたのか。
リグは何故殺し屋を始めたのか。
そういった疑問が、少しずつ、それでいてストレスなく解消されていく構成のおかげで、そういうことか。と登場人物たちの言動に納得し、共感しながら読み進めることができました。
育った環境も、体験した経験も違う、普通に生きていれば出会うことのなかった2人が過ごす奇妙な空間。
そこで人間の事情などしらず、自由気ままに過ごす猫たち。
全体的な雰囲気はシリアスだというのに、優しく和やかな空気も感じられる。リグという殺し屋と同じく全体的に不思議な雰囲気に満ちています。
家族、個人、存在意義、善悪など様々なことを考えさせてくれる物語です。
ロルフは「我儘」なのかもしれない。
愛されたいと願い、守りたいと誓った母が自分を顧みないと知った時、その苦痛から逃れるために死を願った。
彼が子供だから?いや違う!
誰もが誰かを愛したい、誰かに愛されたい。殆どすべての人がそんなささやかな願いを持っている。
愛しているから相手のすべてを受け入れ、相手の望みを叶えようとする、自分を犠牲にしてでも。
結果、擦り切れ、疲れ、自分の行く末を見失ってしまう。
ロルフは幸運だったリグと出会ったから。
ロルフは幸運だったパメラが居たから。
絶望と困難に出会った時、そこには生きる兆しが表れる。
手を伸ばすかどうかは貴方次第だ。
血と暴力までもが優しさを強調する文章に憧れます。
少しの切なさが香る「人の優しさ」を味わう物語。
死体になりたい――。
そう願ってさ迷い続けた少年の前に現れたのは、何色にも染まらない完全無比の闇を纏った男だった――。
といった感じに始まるストーリーですが、はっきり言って、心の綱渡りをしているかのような奇妙な感覚に落とされました。
おそらく、この作品は落ちろうと思えばどこまでもダークな世界に落ちるはずです。しかし、それに抗うように作品全体を包む優しさが、アンバランスなまま、読者を繊細な心理描写に誘います。
注目すべきポイントとして、いくつもの問題を抱えた『僕』が登場してきますが、それらを丁寧に解決へと導くストーリーは、暗闇の中で見る光のように思えました。
素晴らしい作品と、綱渡りに成功したような楽しい時間を提供していただき、ありがとうございました。
ぜひ、みなさまも一読をオススメします!! 作品を演出するネコたちがお待ちしてますよ!