今週末、幼馴染はおっさんと結婚する

杉浦 遊季

今週末、幼馴染はおっさんと結婚する


 十九世紀の作家オスカー・ワイルドは、このような言葉を遺している。


〝男は女の最初の恋人になりたがるが、女は男の最後の恋人になりたがる〟


 これは男女の恋愛観の違いを言い表した言葉だが、この言葉を突き詰めると、男性は経験の少ない女性を好み、女性は経験豊富な男性を好むということである。つまり曲解すれば、中年の男性と無垢な少女が結ばれれば誰もが幸せになれるという解釈ができる。


 そんな馬鹿な、と思われる方は多いだろう。しかしながら、時代の流れは時として妙な方向に向かうことがある。そして現に、そういう時代が到来してしまった。


 オスカー・ワイルドは、奇しくも未来の恋愛観を言い当ててしまったのだった。







「はぁー……」


 昨日で夏休みは終わったが、うだるような暑さは収まる気配を見せない。少年は放課後生徒がいなくなった教室のなか、自身の席に座りながら窓の向こうの夏空を見上げ、そして盛大にため息をついた。


「オイオイ悠真ゆうま君、周りに不幸な空気を撒き散らさないでくれ。せっかくの放課後のひと時が辛気臭くなる。気持ちはわかるが、夏休みの宿題を踏み倒そうとした君が悪い。終わるまで監督してあげるから、さっさと手を動かしたまえ」


 居残りの監督をしつつも教卓で自分の仕事を片付けている二十代後半の女性教諭が、少年のことを悠真と呼んだ。ちなみに、二人は年の離れたいとこの関係だ。馴れ馴れしく接する女性教諭の指摘通り、悠真は全身に纏う不幸オーラを周囲に拡散するかの如く、先程から鬱々とした仕草を繰り返していた。その手は完全に止まっており、宿題が終わる目処はまるでなかった。


「ショックだよ……。まさか結衣ゆいが、に行っていたなんて……」


「あのさ……、君はずっとそう愚痴ってるけど、今時の女の子は、。まあ百歩譲って、幼馴染の結衣が君に黙って婚活していたことにショックを受けるのはわかるが、結衣も君と同じ高二だ。休日に婚活パーティーに参加し、休み明けに友達と成果を喋りあって盛り上がるのは普通なことだ。お子様な男子が口出しできることじゃない。悔しかったら早く立派な大人になることだな」


 女性教諭の忌憚ない言葉に悠真は更に落ち込み、まるで病に犯されているかのように元気がなくなっていく。その言葉はもっともだ。それは悠真自身十全に理解していることである。しかしながらこうして現実を突きつけられると、その現実と向き合うことができず逃避してしまう。


「でもまさか、もう相手を決めてしまうなんて……」


「知らなかったのは君だけだぞ。別にこの夏休みで婚活パーティーに参加し、そこで相手を決めてきたわけじゃない。結衣は他の子と同様、高校入学すると共に精力的に婚活して、去年の夏休みで気になる相手を見つけ、その後結衣からアプローチして交際を始め、そして今ゴールインしたわけだ。昨日今日の話じゃない。もう一度言うが、知らなかったのは、君だけだ」


 今朝の出来事である。夏休み明けの朝のホームルームにて、担任の教師から結衣が結婚することが発表された。しかも挙式は今週末である。それによりクラスの女子は結衣に詰め寄り「おめでとう!」の嵐を受けることとなり、男子は自分とは関わりのない別世界の話題としてスルーしていた。しかし悠真だけが、その知らせに驚愕した。


「どうして……どうして結衣は俺に黙っていたんだろう……」


「結衣なりの考えがあるんだろう。私はアレコレ相談にのっていたから、最初から全部知っていたけどな」


「そうですか……。はぁ……。どうしてこうなった……」


 悠真は今日何度目かわからないため息を吐き出す。そして考えてもどうしようのないことを延々と考え続ける。


 結衣はどうして、見向きもしてくれないのだろう?


 どうして、こういう時代になってしまったのだろう?








 ことの発端は、政府の子育て支援の政策だった。


 もともと少子高齢化社会であったのだが、世相から年々晩婚化が進み、どの家庭も年をとってから子供を産むことが多くなった。しかしながら高齢での出産はリスクがあり、また子育てに夫婦の体力がついていかないという事情が合わさり、次第に晩婚ののちあえて子供を作らない夫婦が増加した。その結果更に少子化は進み、人口は減少の一途をたどった。これは「少子化スパイラル」と呼ばれ、社会問題にまで発展した事柄である。


 日本の人口は、平成の時代では約一億三千万人だった。しかし年号が二回ほど変わる頃には、人口は一億人を下回るようになった。


 それを憂いた政府はようやく重い腰を上げ、大胆な政策を実行するのであった。他所の予算を大幅に削減し、代わりに社会保障予算を増幅させ、子育てしやすい環境を整え始めたのだ。その一環に助成金制度がある。この制度は単純に、女性が若く結婚や出産をすればそれだけもらえる金額が増加するというもので、うまく条件さえ整えば、大卒の初任給をはるかに凌ぐ金額を毎月受けられる制度であった。


 しかし若く結婚出産しても、助成金だけでは暮らしてはいけない。子育て支援は充実したが、一方で雇用に関する諸問題の改革は行われず、むしろ悪化してしまったため、若く結婚しても生活は苦しいままだった。助成金制度で若年層の結婚出産は増えたが、根本的に少子化スパイラルを打開するまでにはいたらなかった。


 そんな中、人々は気がついてしまったのだ。高額の助成金が得られる若い女性と、出世し社会的な地位を築き上げた男性が結婚すれば、自ずと裕福な生活ができる、と。


 それにより世間は、その盲点に食らいついた。メディアは繰り返し年の差婚の特集をし、ブライダル業界も年の差婚のお得なサービスを次々と展開させていった。その加熱っぷりに世間の認識も変化していき、事実上、十代の若い女性と中年の男性が結婚する構図は市民権を得ることとなった。


 また、かつて女性の結婚年齢が十六歳から男性と同じ十八歳に引き上げられたが、しかし逼迫した少子化とそれによる世相の変化も相まって、再び十六歳に引き下げられた。引き下げの議論においては十六歳以下にするべきという意見もあったが、最低限義務教育は終了するべきという結論でまとめられた。


 こういった事情から女性だけ結婚適齢期が極端に下がり、結婚ができる年齢になった女子は玉の輿を狙った婚活をするようになった。学校側も学生の結婚出産に柔軟に対応するように変化していった。


 こうして社会は、少子化スパイラルから徐々に脱し始めた。それと同時に、十代の男子は女子から見向きもされなくなったのだった。同年代の男子は所詮幼稚な友達。それが女子の認識である。







 悠真の学習用端末は夏休みの宿題を表示したままで、一向に進んでいなかった。


「相手はおじさまと言っても差し支えないくらい、渋い感じのイケメンだったぞ。しかも高学歴の弁護士。結衣の付き添いで実際に会ってみたが、性格に問題はなし。かなりのハイスペック中年だったな。正直結衣の婚約者じゃなかったら私が狙ったぐらいだ。君がどう足掻いたところで、君に勝目なんてない」


 いとこの女性教諭は、教卓のホログラム黒板をメモ帳代わりに使いつつ自身の端末で仕事をしながら、悠真に聞こえるように呟いた。その呟きは言外に「諦めろ」と諭しているかのようだった。


「……先生は、結婚しないのですか?」


 現実を突きつけられた悠真は反撃として、相手の揚げ足をとるかのように言い返した。二十代後半で独身のいとことしては、十歳も離れた小娘が先に結婚することを快く思っていないと踏んでの質問だった。


「んー? まあ時期が来ればな」


 しかし、いとこの女性教諭は意に介さない様子で返事した。


「吞気ですね。もうすぐ三十路でしょ?」


「年齢は関係ないさ。結婚は、したい奴がすればいいだけのこと。政府の政策とか世間体とかを気にしてするもんじゃない。余計なことを考えてする結婚は、私は好かん」


「そんなもんですかね?」


「そんなもんだ。男も女も、結婚が全てじゃない。現に若者の結婚する割合は増えたが、総合的に見れば結婚の件数は変わってない。進路の選択肢の一つになったに過ぎず、変わったことといえば、中学高校の進路希望調査に『お嫁さん』と大真面目に書いてくるようになった程度だ。早いか遅いかしないかの違いでしかなく、それを選ぶのは個人の自由。であるならば、結婚の必要性を感じない人は、一人で人生を謳歌すればいいだけのこと。私のようにね」


「……俺にはよくわかりません」


「だろうな。だから君はお子様なんだよ」


 悠真は反撃したつもりが、逆に自身の痛いところをつかれてしまった。結局の話、ずっと一緒だった結衣が悠真に見向きもしないのは、悠真が理想の男性像と比べて子供すぎるからである。それは経済的な部分もあるが、一番としては人間としての意味だ。


 だが、子供でも恋はする。


 かつて同年代の恋愛が当たり前だった時代なら、相思相愛であれば幼い恋も実った。


 しかし現代では、男子の想いの行先はない。行き止まりの初恋。行方不明の青春。そんな事態にした社会を、悠真は恨まずにはいられなかった。


「……想いを伝えてきたらどうだ?」


 不意に発せられた言葉に、悠真は目を見開いた。まさかそんな言葉を投げかけられるとは思ってもみなかったからだ。


「相手は婚約者がいる女子ですよ! 断られるに決まってるじゃないですかッ!!」


「だろうな。でも、想いを伝える意義はある」


「断られる告白に、意義なんてないですよ」


「あるさ。自身の気持ちに終止符を打つことができる」


 その答えを聞いた途端、悠真は押し黙ってしまった。


「なにも告白は相手に想いを伝えることだけじゃない。自分の想いに向き合う行為でもある。であるならば、結果のわかっている告白も意味があるということだ。君の結衣への想いは、時間が解決してくれるようなやわなものなのかい? そうじゃないだろ。だったら、思いっきり失恋して、その想いを粉々に砕いてしまえばいい。相手は困惑するだろうが、気にするな。それで気持ちがぶれるようなら、この先の結婚生活はうまくいかない。ここは一つ、結衣の想いを試すつもりで告白して来い。君と結衣が一歩前に踏み出す切っ掛けにするんだ。そういう告白の仕方もあるんだよ」


 いとこのその言葉は、悠真にとって衝撃的だった。悠真はこれまでの人生で、告白はただ単に自身の想いを伝えるためだけの手段でしかないと思っていた。しかしそうではないのだ。


 相手と向き合うと同時に自分と向き合う行為。


 相手に自分を知ってもらうために、自分の全てを再認識する儀式。


 それが、人に想いを伝えるということだ。


 であるならば、逆説的に己を見つめ直すために告白するのもよいことではないだろうか。


 まだ大人ではない男子高校生の悠真は、それを今知った。


「……先生、今日はもう帰っていいですか?」


 悠真は湧き上がる激情に従うため、そう打診する。自分の気持ちに向き合うには、ここにいてはいけないのだ。


「特例だ。夏休みの宿題は明日まで待ってやる」


 いとこの女性教諭はさも興味がないと言いたげな返事をし、それを聞いた悠真は脱兎のごとく教室を飛び出す。教室の扉を勢いよく開けたときに「青春だね」といとこの呟きが聞こえたが、悠真はそれに反応することなく廊下を疾走した。







 結衣の家は、悠真の家の近所である。幼稚園も小学校も中学校も同じ時間を過ごし、お互いに通い合った家は、例え目をつぶっていたとしても辿り着ける。悠真は学校から家までの道をただがむしゃらに駆け抜けていく。


 その道の途中、閑静な住宅街の普段誰もいない公園の前を通ると、そこには珍しく人の姿があった。華奢だが健康的な体躯に、風にはためく美しい髪。それは悠真の脳裏に焼きついている想い人であった。


「こんなところで、何してるの?」


 悠真は走るのを止め、息を整えながら近づき、そして声をかけた。すると目の前の女の子は悠真の声に反応し、その年相応に愛らしい顔貌を悠真に向けた。


「やあやあ、悠真クンじゃないか。どうしたんだい? 汗だくだよ」


 その少し不遜な言葉遣いはいつも通りの結衣であったため、悠真は半ばほっとした。婚約したからといってそう簡単に人が変わるわけではないが、まだ自分が知っている結衣のままでいてくれたことが嬉しくてたまらなかった。


「今週末、結婚するんだってな。なんで、なんで黙ってたんだよ」


 悠真は衝動のまま結衣に問いかけた。


「んーとね、ドッキリ」


「ドッキリ?」


「そう、ドッキリ。一番親しくしてくれたキミに、ただ報告するだけじゃつまらないじゃん。だからサプライズな報告をしようと思って、ずっと黙ってたの。本当なら前日に報告しようと思っていたけど、まさか教室で先生が発表しちゃうなんて予想外でさ。もうビックリしちゃったよ。結局ドッキリも台無しになっちゃったし、踏んだり蹴ったりだよ」


 結衣は快活に笑いながらことの次第を説明してくれた。しかし悠真としては納得がいかない。


「ドッキリ? なんだよそれ。そんな大事なこと、笑いのネタにしようとするんじゃねぇよ……」


 悠真は結衣の行動を糾弾しようとするが、心の何処かで結衣はそういう人物だとわかっていたので、思わず言葉尻が弱くなってしまった。結衣はいつも不遜で不真面目でイタズラ好きで、でも根は筋が通ったしっかり者の女の子。


「そうだね。ゴメンね。またキミに迷惑をかけちゃったかな?」


 だからこそそのドッキリも悪気があってやったことではない。そしてそれによって相手に心配させてしまったことを素直に謝ることができる人物である。そのことを十分理解しているから、悠真は結衣を強く咎めることができなかった。


「で、こんなところで何してるの?」


 悠真は仕切り直すかのように、最初の質問を投げかけた。


「いやなに、懐かしいと思ってね。なんて言えばいいかな……結婚前に自分の半生を振り返る的な感じかな。幼稚園のときも、小学生のときも、中学生のときは……あれ? 流石に中学のときはなかったかな? まあなんであれ、この公園でキミとよく遊んでいたなあって思い出したんだ」


 そう語る結衣の表情は、どことなく儚げであった。別にこれまでの思い出が消えてなくなるわけではないのに、結衣は思い出の場所をいつまでも眺めていた。ちなみに、この公園で結衣と遊んだのは、中学一年生の夏休みに花火をしたのが最後である。


 そんなノスタルジックな空気感に支配された公園にて、悠真は思い出に浸る結衣を見つめることしかできなかった。


 しかし、悠真には伝えるべき想いがある。それを伝えるためにここにいるのだ。


「結衣、聞いてほしい」


 悠真の声によって、結衣の視線は再び悠真に注がれる。


「俺は……俺は、結衣が好きだ!」


 緊張で声が震えつつも、悠真は意を決して想いを告げる。その瞬間、結衣は瞠目した。


 だが結衣が反応する前に、悠真は続きを畳み掛ける。


「でも、結衣は、弁護士だかなんだか知らないが、俺とは別に好きになった奴がいるんだろ。そいつと結婚するんだろ。だから、だから、俺が言えることは、絶対に幸せになれってことだ!」


 結衣の瞳は、悠真の言葉によって潤んだ。


「いいか! 結衣は幸せになる一方で、俺は二十年後、結衣よりいい女見つけて結婚してやるんだからなッ!! そんで結衣が羨むくらいに幸せな結婚生活を送ってやる!」


 熱を帯び、思考が激情によってぐちゃぐちゃになった悠真は、ただただ脳が吐き出す言葉をそっくりそのまま口から吐き出していく。悠真自身、自分が何を言っているのか、半ば理解していなかった。


「うん、わかった」


 しかしそれでも、悠真の気持ちは結衣に伝わったようだ。


「なら、約束しよう。私は結婚して、来週から幸せな人生を歩む。で、キミは、二十年後私よりいい女の子を見つけて結婚する。いい? 約束だからね」


 そう言いながら結衣の瞳から温かい涙がこぼれ落ちた。そして徐に小指を差し出してくる。


 悠真は差し出された小指に自身の小指を絡ませ、約束の唄と共に上下に振る。そして歌い終わったあと、それが永遠の別れでもあるかのように、寂しく小指は離れていった。


 悠真と結衣はしばし見つめ合う。結衣は微笑みながら涙を流している。それにつられて悠真も泣きそうになるが、結衣の前では泣きたくないと思い、なけなしのプライドを守るかのように背を向けた。そして一度も結衣の方に振り向くことなく一目散に公園から出て行った。


 ただただ住宅街を走る。何処か目的地があるわけではないが、ただ間欠泉のごとく溢れ出る感情を発散させたいだけだった。


「あああああぁぁぁぁぁッ!!」


 そして走るだけでは感情を発散させることができなくなり、いつしか悠真は走りながら喚いた。気づけばもうすぐ日は暮れようとしており、日中の強烈な日差しは少し和らいでいた。しかしまとわりつく湿度とむせるような温度は変わらず、汗は止まることなく制服を濡らし続けた。


「バッカヤロォォォォー!!」


 汗と涙と鼻水でぐしょぐしょになった悠真は、誰かを罵倒する言葉を吐き捨てる。しかしその罵倒が誰に向けたものなのかは、悠真自身、皆目見当がつかなかった。


 こうして悠真の初恋は、終わりを告げた。







 その後の話としては、無事結婚式を終えた結衣は新居に引越し、悠真とは近所ではなくなった。それによって結衣と顔を合わせるのは教室の中だけになった。しかし互いに距離をとり、直接会話をする機会は少なかった。その数少ない機会も、何処かぎこちなさがあり、かつての関係は消失していた。


 三年生のある日、結衣が妊娠したことが発覚した。学校内はおめでたな雰囲気に包まれ、生徒も教師も祝福すると共に結衣を気遣った。しかし男子、とりわけ悠真は無関心を貫いた。本当はみんなに混じって祝福したかったが、すればきっと自分が傷つくと思い、行動に移せなかった。ただ心の中で密かに祝った。


 結局結衣は、冬休み以降学校に登校することはなかった。学校の成績も十分だったし、なによりお腹が目立つようになってきたので、そのまま産休に入るとのこと。卒業式にも出席することができず、悠真としては、冬休み前に教室で会ったのが最後となった。


 結衣との約束を果たすため、悠真は懸命に勉学に励み、結果としていい大学に入学することができた。そして婚活パーティーで女子受けするだろうという安易な気持ちで医学部に入り、そのまま医者として社会に出た。それから懸命に出世し、気がつけば三十五歳を迎えていた。悠真としては、あっという間に時間は過ぎていった。


 そろそろ婚活をしようと思い、悠真は婚活パーティーに出席するようになった。案の定、医者という肩書きに食らいついた多くの女子高生や女子大生からアプローチを受けたが、悠真はその全てを丁重に断った。別に明確な理由などない。強いて言えば、ピンと来ないだけである。


 そんな中、とある婚活パーティーに出席した際、悠真は運命的な出会いをする。その女の子の雰囲気は、どことなくかつての幼馴染と似ていたからだ。悠真は即座に交際を申し出て、実際にその女の子と付き合うようになった。


 かつての幼馴染をその子に重ねているだけと言われれば、悠真はそれを否定することができない。しかし悠真としてはとうの昔に終わった恋をずっと引っ張っているつもりはない。ただ単に、自分の好みの女性がかつての幼馴染であるだけの話だと自身に言い聞かせた。


 そして交際から一年が過ぎた頃、悠真は十代の恋人にプロポーズをし、彼女はそれを受け入れてくれた。それから数日後、ご両親に挨拶をするために彼女の実家を訪れた。


 婚約者と共に玄関に立ったわけだが、出迎えてくれた婚約者の母親に、悠真は驚愕を禁じ得なかった。


「やあやあ、久しぶりだね。娘からキミの話を聞いたときはビックリしたよ」


 確かに悠真の婚約者はかつての幼馴染と雰囲気が似ている。だがしかし、悠真自身こういう可能性は想定していなかった。


「どうよ、私の愛娘は、私よりいい女に育ったでしょ」


 そこには、高校生の娘をもった三十五歳の結衣がいた。


「……ああ。この子は、とってもいい女の子だよ」


 奇しくも悠真は、この日、世界の狭さを知った。




〈了〉




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