零の章・第二話 俺が好きな作品についてのお話

 2012年。7月7日、水曜日。早朝。

 今日は五節句の一つ。いわゆる七夕だ。

 目覚まし時計よりも早く起きた朝の話。

 俺はお気に入りの漫画を読んでいた。

 

「本当に面白いよなー」


 本を閉じ、余韻に浸る。

 ベッドで横になりながら、天井のポスターを見つめる。

 天井に貼られたアニメのポスターは前前前期に放送していた【覇王学園―0から始まる牙の色―】と言う格闘アニメの販売促進ポスターである。ポスターの構図は、主人公・九重ここのえキバが中央に立ち、その周りに個性豊かなヒロインやサブヒロインが立っている感じだ。主要メンバーの後ろにはわき役と敵役が描かれていた。


 アニメがまだ放送していた時期にオークションで落札したポスターなので、値段は今現在入手できる金額の3倍だった。記憶が正しければ1万2千円だった気がする。


「まぁ」


 販促ポスターの平均的な値段が1980円から3500円なので、そう考えると一万円を超える値段のポスターは相当高いことになる。しかも俺はバイトすらしていないただの高校二年生だ。なので一万と言う想定外の出費はかなり痛い。

 

「いや、値段の話は別にいいか。思い出はプライスだもんな」


 3倍の値段は愛の値段だと思えばいいさ。

 本当に好きな作品だからこそ、高額でも手に入れたいと思った訳だし。


「んー。愛、か」


 改めて「この作品のどこが好き?」と問われると、首をかしげる。

 たぶん好きな部分が多すぎて答えられないのかもしれない。

 

「でも強いて言うなら……どこだろうか?」


 キャラクター? ――は意外と王道で目新しさはない。

 ストーリー? ――もバトル路線にありがちな無難な展開。

 世界観? ――は現代モノなので新鮮さはあまり感じない。


「んー」


 そう考えると、どうしてこの作品が好きなのか分からない。


「――とは言え」


 俺の心がこの作品の何かに惹かれたのも事実。

 つまり、この作品を好きになった理由が必ずある。


「だよなー」


 そう思った俺は、この作品と出会った当時のことを思い出してみることにした。

 いわゆる原点回帰。記憶をたどれば好きである理由が分かるかもしれない。

 さて、それでは始めよう。俺に影響を与えた作品についてのお話を――


 ◀◀ 話は遡ること数年前 ◀◀


 俺がまだ小学生で、オタクであることを隠していた時期の話だ。

 おそらく日曜日だった気がする。俺は普段通り本屋へと赴いていた。

 あの日の俺は苛立ちを覚えていたような気がする。ラノベの棚がどの出版会社も『異世界転生モノ』で、内容もあらすじも似たような作品ばかりだったからだ。

 異世界に行ったら○○、異世界で○○やってみた、異世界で○○と天下統一、異世界異世界エトセトラ。現実がつらいのはわかるが、異世界モノが多すぎる。

 

 もちろん俺も異世界転生は好き……いや、好きだった・・・

 そう、過去形だ。

 異世界転生ブームが到来してからの数ヶ月、俺は飢えたライオンのように異世界転生モノの小説を読んだ。書籍、キンドル、カクヨム、なろう。

 まだ見ぬ世界と創造の斜めを行く作品にワクワクしていた。


「こんな世界があるんだ!」「この作者の世界観すき」「異世界転生おもしろい!」


 ただ、次第にそんな興奮も薄れていった。


「また似たような話か」「あれ? この物語、Bの出版会社から出てるAって作品でも見たぞ」「またなんの努力もしないハーレム主人公かよ……」「神様に力を貰ってステータスオールMAXとか本当にチートだ」「まず主人公が好きになれない」


 異世界転生のバーゲンセール。

 多い。多すぎる。テンプレート過ぎる。手垢だらけだ。

 あれも、これも、どれも、それも、どこかで見たことのあるような物語。


 もちろん読み進めて行けば、作者の個性とか、キャラクター性とか、ヒロインの性格で差別化はできている。だけど、まず似たようなタイトルの時点で、その本を読もうとは思わない。なので出版社は考えた。どうすれば本を買ってもらえるか?

 そこで彼らがたどり着いた答えが、あらすじをタイトルにしよう大作戦だ。

 あらすじがタイトルになっている作品で有名な物がある。スーパーマンドリル文庫から出ている、平井健三先生のデビュー作が良い例だ。そのタイトルが――


【俺の名前は白井雄介。彼女持ちだ。しかもその彼女とはなんと俺の幼馴染←(可愛い)←(ここ重要)。勇気を出して告白してよかった。あの選択のおかげで今がある。これで俺の学園生活はバラ色だ……と思ったのに、付き合ってみらた幼馴染の裏の顔を知ってしまう。清楚系幼馴染ヒロインかと思ったら束縛系メンヘラヒロイン!? おいおいマジかよ。これじゃ夜も眠れねーぜ。と言いつつ今日はいろいろと疲れて眠かったので普通に寝た。鳩の鳴き声で目覚めると、知らない天井だ。なななんとそこは異世界だった。え、スマホもテレビもないファンタジー世界に迷い込んだのか!? とってもラッキー牧場。可愛いヒロインたちと出会ってハーレム主人公ルートまっしぐら――のはずが、まさかメンヘラ幼馴染が俺を追って異世界まで来ちゃった。なんという執念。お母さんでもお姉さんでもなく、メンヘラ幼馴染同伴の異世界ライフ。この世界にはエルフもグラスランナーもいるのに目移りできない……。俺も殺されて相手も死ぬ。トホホ。恐ろしいが、これも現実か。束縛系幼馴染メンヘラと紡ぐ俺のトホホなハーレム物語が今、始まる(僕はキメ顔でそう言った)というのが序章】


 信じられないと思うが、これがこの本のタイトルである。

 タイトルというか、あらすじというか、地の文と言うか……。

 いや、まぁ、タイトルで差別化を図りたい意図はわかる。

 だがこれはタイトルと呼べる代物なのだろうか?

 なんでもかんでも長くすればいいって問題ではない。


「そこまでしてでも、出版社が異世界モノを出したいのには理由がある」


 簡単な話だ。


 出せば売れる。


 異世界転生をベースに物語を書けば売れる。

 似たような物語でも、世代が異なればその人にとっては新鮮な物語。

 オタクならともかく、スナック感覚でラノベを読んでいる人間が全てのラノベを網羅しているとは思えない。つまり、似たような物語が発売されても、Aの作品とBの作品のバックボーンが類似していることに気が付く人は少ないだろう。


 極端な話、『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』と言うセリフをベースに新たな物語を書いたとしよう。主人公を女性から男性に変えただけでも作品は劇的に変わる。キャラクター配置も少し変えて味付けしたら、こうなる。


『俺の名前はデュフルヘルム。強欲の魔王だ。あくどいほど欲が張り、欲するものはすべて手にしてきた。レア装備、高い地位、強い召喚獣、無敵要塞である自作ダンジョン、雑魚どもからの素晴らしい嫉妬と殺意。最高の気分だ。カンストした俺に、手に入れられないものなどない――と死んでゲームの世界に転生するまで本気でそう思っていた。死の間際、俺は無我夢中で叫んだ。エッチするまで死にたくない。そこで俺は気付いたんだ。ワイ、童貞やん。ゲームの中では無敵、でも現実では弱キャラ。キモイデブで、清潔感のかけらもない男だった。でも、今は違う。なぜなら今の俺は、本物の魔王デュフルヘルムだからだ。え、俺、格好良すぎ!? この世界に俺を愛してくれるエルフ、アンドロイド、獣人族、鬼人がいたら俺のところに来てくれ。魔王デュフルヘルムは現在絶賛彼女募集中、以上!』


 オタクではない普通のラノベ読者であった場合、これがハルヒをもとに練られたあらすじだとは気が付かないだろう。むしろ「ナンコレ面白そう!」と言い出すかもしれない。実際自分で考えていて面白そうだとは思ってしまった。


「不覚」


 異世界モノを書けば編集も作者も読者もWin-Win。

 需要があるからこそ、この異世界転生ブームは数年経った今でも続いている。

 人は常に生まれ、常に死ぬ。古参の読者が飽きれば、新参者が新たに本を買う。

 だからこそ、異世界転生を題材にしたラノベは常に補充されている。

 30代のオタクには彼らのラノベ黄金時代があり、20代のオタクにも彼らの黄金時代がある。そして10代のオタクにも彼らだけの黄金時代があるのだ。


 このように、歳を取ればとるほど似たような小説があることを気付く。

 だが、昔のラノベに興味がない10代のオタクたちは昔のモノを知らない。

 だから「マッドマックスが北斗の拳のパクリ」とか言い出す連中が現れるのだ。

 まぁ、つまり何が言いたいのかと言うと、異世界転生に飽きた俺は、いわゆる ”ターゲットではない” 人間になってしまったと言うことだ。別に異世界転生が悪だとは思わない。悪いのは自分。歳を取り、飽きてしまった自分こそが悪なのだ。


 もちろん視野を広くして本屋を散策せれば、異世界転生以外のジャンルも沢山売っている。ミステリーだったり、アクションだったり、部活モノだったり。

 ただ、やっぱり昔と比べたら異世界もの以外のジャンルは激減した。

 なのに業界全体の売れ上げは昔とあまり変わっていないらしい。

 つまり、異世界モノ以外の作品が消滅しても、ライトノベル業界は特に困らないのだ。異世界転生以外ジャンルは、業界のおまけ見たいな扱いになってしまった。

 あぁ~たまには『はがない』や『のうりん』のような普通の現代学園ラブコメでも読みたいな。また現代モノのブームが来ないかなぁ……。などと思う今日この頃。


「そう言えば、この前ラノベ原作の作品が漫画化コミカライズしたんだよな」

 

 確かタイトルは『冴えない俺が異世界転生したら金髪エルフと黒髪ドワーフと緑髪ラミアと桃髪ハーピーと青髪アンドロイドと白髪ドラゴンと赤髪サキュバスが家に押し寄せてきた』だった気がする。タイトルからして読もうとは思えない……。

 ああーいう作品が売れるのはヒロインのキャラクターデザインが優秀なだけであって、ストーリーが面白いからではない。確かに内容がなくても女の子のキャラデザがいい作品は一時的に話題にはなるだろう。しかし、廃れて行くのも速い。

 一方で、内容もキャラデも面白い話は、何年経っても人の心に残り続ける。

 まっ、どんな方法であれ、業界は売れた者勝ちだ。売れた作者こそが正義。

 ラノベ原作のクソアニメと言われようが、アニメ化している時点で勝者だ。


「……漫画、か」


 当時の俺はあまり漫画を読まないタイプの人間だった。

 読んでいたとしてもそれは遠い昔の話。

 小学校一・二年生の頃とか。ゴロゴロだったり、ポンポンだったり、いかにも小学生が好きそうな漫画を読んでいた。なんとなくサタデーやチャンプは大人の読み物ってイメージがあったので読めなかった。だから学校の裏山に捨てられたチャンプを発見した時は、エロ本を見つけた気分だったのを覚えている。グラビアとかエロし。


 中学に入ると、俺はゴロゴロを卒業し、週刊チャンプデビューした。

 だけど、それもいつしか買わなくなり、自然と漫画自体を読まなくなった。


「でも、たまには漫画もいいかもな」

 

 ラノベに若干飽きていた俺は、小説休暇と言うことで漫画コーナーへと赴く。

 そこで俺は――【覇王学園】 と出会ったのだ。

 その出会いは本当に偶然。

 たまたま手に取った漫画がソレだったのだ。


「これは……面白そう」


 表紙を見た時、一瞬で心を奪われた。

 決して上手とは言えないキャラデザ。

 でも作者の個性を感じる絵柄だ。


「どんな話なのだろうか??」


 表紙の感じからして格闘とかアクションとか武道ってイメージ。

 男塾みたいな感じなのかな? と思いながら、背表紙のあらすじを読んだ。


「へぇ、こんな話なんだ」


 予想通り男塾みたいな感じだった。多分この作者はあの漫画から影響を受けているに違いない。面白い作品からインスピレーションを受けることは悪いことじゃない。


「ただ」


 男塾は主人公が強いが、覇王学園の主人公は弱い。

 しかも何も極めていない、どちらかと言うと争いを好まないタイプ。


「周りが最強なのに、主人公だけが最弱キャラ?」


 立ち読みはしたくないが、これは今すぐに読みたい。

 この面白い作品を俺の中に取り込みたい。

 必ず買うから許して、と言いながら俺は読んだ。


 ×   ×   ×


 最弱なのに、彼は努力ができる男だった。

 だから強くなっていき、やがて一目置かれる存在となる。


「第4話が完璧過ぎる。認められていく経緯や出来事が格好いい」


 憧れちゃう。俺もあんな主人公になりたい。


「あと、ギャグも面白い」


 本格バトルマンガなのに、ときどきギャグテイストになるのが笑える。

 なので、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』とか『エンジェル伝説』が好きな人でも楽しめる作品――だと思う。あくまでも個人の感想だ。


「あと、この特徴的な漫画の絵柄・タッチ……好き」


 作者が本気で漫画を描けば、きっとめちゃくちゃ上手いのだろう。

 けど、この人はあえてキャラの特徴を強調する描き方をしている。

 ヒロインたちも綺麗より可愛い系が多く。全員特徴的である。

 メインヒロインに至ってはデザインが雑だ。

 まずデッサンがおかしい。でも脚が長くて美しい。


「ええやん」


 かなり好き。雑だけどすごく可愛く見える。


 毎日のように美化された美少女を見ていた俺の概念が崩れる。

 新たなる可愛さに目覚めた。可愛いの概念が追加された。 

 ヒロインを書く上で大事なのは上手さじゃない――個性だ。

 個性的であり、可愛く描かれていること。そこに惹かれた。

 まず、目が同じで髪型だけを替えた量産型ヒロインではない。


「デザイン好き。ストーリー好き、サブヒロインたちも好き」


 覇王学園は格闘漫画ではあるが、女性キャラ率の方が圧倒的に多い。

 主人公:1 ヒロイン=7 

 読者層メインターゲットが男性なので、女性キャラが多いのは納得である。

 

 しかし、個人的にこの漫画は他の作品とは一線を画していた。

 他の漫画家が読者を喜ばせたり、人気を得るためだけに女性キャラに不自然な露出をさせる中、覇王学園の作者だけは最後まで不自然な露出を描かなかった。

 露出をえがいたとしても、ナイフで服を切られた時に見える傷と肌くらいだ。

 服だけを溶かすスライムもいないし、殴られて服だけが破れることもない。


「リアリティ」


 この作者は徹底的に自然な肌の露出にこだわった。


 あと、高ポイントなのパンチラシーンだ。

 昨今の漫画だと、不自然な風でいともたやすくスカートが捲れる。

 しかし、覇王学園は違った。風でパンツが捲れることはない。

 普通にフワッとなるか、ヒロインがスカートを押さえるか。

 パンチラのバーゲンはない。そこにリアリティを感じる。

 なら、この漫画にはパンチラシーンが全くないのか? 

 

「いいや、ちゃんとある」


 階段を見上げたら自然と眼に入ってしまうパンツ。

 女の子が転んだ時に見えてしまったパンツ。

 着替えを覗いてしまった時に見えたパンツ。

 自然な流れで入るパンツイベント。

 なんと言うか、俺はあの漫画から作者のこだわりと生き様を感じた。


 もちろん異論は認める。


『攻撃を受けただけで服が消し飛ぶからいいんじゃないか!』『服だけを溶かすスライムの何が悪い!』『スカートは風が捲れるだろ常考!』と言う人もいる。


 確かに俺もいいと思う。

 ヒロインの柔肌は見ているだけで目がニッコリだ。

 ただ俺は、不自然に吹き飛ぶ・・・・・・・ヒロインの服が嫌なんだ。

 殴られただけでパンツとブラジャー以外の衣類が消し飛ぶシーンを見ると、ツッコミたくなる。――ギャグかよ!! なんで下着だけ残るんだよ!! ってな。

 女性がわざとらしく裸にされているシーンを見ると、なんだか編集と漫画家に『お前らオタク読者は女の子が裸になれば喜ぶんだろ? ほら、興奮しろよ萌え豚ども!』って言われているような気がしてえる。だから不自然なおはだけは好かんのだ。

 そういう点で、俺は覇王学園と言う学園格闘漫画を高く評価している。


 バトル描写もリアルで、超能力とかチートではなく、ガチの拳と拳・体と体のぶつかり合い。ヒロインもサブヒロインも最強、脇役も先輩も先生も最強。

 聞いたことのない拳法が続々と出てきて新キャラが登場するたびにドキドキする。


「個人的に好きなのは第2話で出てきた敵キャラの脱臼鞭拳法だ」


 実在する武術も登場すれば、作者の考えた訳の分からない武術も登場する。


「そこがお面白い」


 1巻を最後まで読み、また冒頭のページへと戻る。


「やっぱり冒頭が面白いよな。主人公の絶叫から始まるのがいい」


 高校の合格者を決めるために行われた大乱闘試験。

 周りが激しくドンパッチやる中、なんの力もない最弱の主人公が呆然と立ち尽くして怯えているシーンがいい。ただ、もちろん不満もある。とくに主人公が法科高校と拳法科高校を間違えて受験したシーン。これは流石に強引すぎだろ、と思った。


「まぁ、面白いからいいけど」


 その強引さも絵と勢いで誤魔化されている。


「あのこのキョドル九重キバもいい」


 恐怖で足がすくむ主人公。

 右を見ても戦う格闘家。

 左を見ても戦う格闘家。

 前や後ろも同様に格闘家。

 上を見たら上空で戦う生徒たち。

 一歩でも動けば戦闘に巻き込まれる。

 彼は死を覚悟していた。

 まるで天変地異の中に取り残された唯一の人間。


「ここで学園に助けを乞うんだよな」


 学園側に『助けてください』と言うが、これが逆効果。

 弱い弱いヤツは死ね、と言われ、いきなり大ピンチ。


「そこに駆けつける槍系ポニーテールヒロイン。風車渚左さん……ちゅき」


 こりゃ、惚れるよ。

 主人公同様、俺もこのシーンでヒロインが好きになった。

 キャラデザ最高。ヒロイン可愛い。サブヒロイン可愛い。ストーリー好き。

 俺がどうしてこの作品が好きなのなんとなく思い出した。


 ▶▶ 話は進み数年後 ▶▶


 学年:高校二年。

 状況:ベッドの上で横になっている。

 漫画を手に持ち、天井を見つめる。

 好きなアニメについて考え――思い出す。


「覇王学園」


 1巻、2巻、3巻とどんどん好きになっていく。

 だけど一番好きなのは、よ、よよ、四巻……。


「4巻で登場した嵐山イミルが猛烈にスコなのだ。しかも表紙のイミルちゃんが可愛すぎる。これゼッタイかわいさで殺しに来てるでしょ」


 理由はここだけの話、俺の好きな子に似ているから。

 なんか彼女が登場するたびに心がドキドキして――


「はぁ~~~尊い。可愛さが尊い! メガネ萌えぇえええええ!!」


 好きな女の子と性格が似てる。惚れない方がおかしい。

 全巻一巻ずつ持ってるけど、四巻だけは三冊持ってる。


「面白いよなー。この漫画の作者も好きだ」


 変な路線変更や読者の声に影響されない一貫したテーマ。人気が落ちた時でさえ露骨なエロに逃げず、最後まで貫き通した自然な露出へのこだわり。着衣エロへの執念。着衣おっぱい。あの人の描くヒロインのおっぱいが俺は凄く好きだ。

 アレは漫画でありながら、作者の生き様を描いた物語と言っても過言ではない。


「でも……」


 自分の信念を貫き通した結果、残念ながら人気が伸びずに打ち切られた。

 因みに巻数は全部で10巻。一巻以外は全部初版で買っている。

 確かに覇王学園は『打ち切り漫画』の仲間入りはしたけど、それでもあの作品は俺の心に大きな影響を与えてくれた。俺も九重キバのような男になりたい! 誰かを守れるような男になりたい! と言う強い志を与えてくれた。

 

 覇王学園と出会っていなければ、今の自分はいないと思う。


「……でもまぁ……俺は主人公にはなれないんだけどな……」


 守るべき友達も家族もいないので、覇王学園の主人公のような人間にはなれない。

 守るべき者がなければ、誰かを守ることなんてできない。当たり前だ。

 

「現実はアニメの様にはいかないか」


 因みに覇王学園連載終了後、俺は漫画を読まなくなった。

 なんだか面白い作品はあるけど、心に火をともす作品とは出会えなかった。


 あの日までは――


 それは何気ないある日のこと。

 たまたまコンビニに行ったときの話だ。

 適当に店内をブラーっとしてたら、とある漫画の表紙が目に入る。

 パッとしない主人公、弱そうで細くて雑魚そうな主人公だった。

 なのになんだか興味が湧いた。俺には分かる。この作品は面白い。


 だから一巻を買って読んでみた。


 露骨な露出も際どい女性の裸もない。胸の大きなキャラはいるけど、性的な感じがしない。女性キャラも皆が可愛くて、男キャラも格好良くて好きになれる。

 一気にファンになった。俺の心に再び生きるための炎がともる。

 その本のタイトルが『僕のビッグボーディングスクール』だ。

 英雄を目指す生徒たちが切磋琢磨する姿を描いた登場人物の成長物語。

 やっぱり思う。漫画に必要なのは露骨な性的描写ではなく、ストーリーやキャラの魅力や関係性なのだと。エロはあくまでもおまけ。それに頼ってはいけない。


 覇王学園は打ち切りエンドだったけど、ビボスクには長く続いてもらいたい。

 もし終わる時が来るのであれば、そのときは最高の形で終わってほしい。

 

「そう、バクマンの新妻エイジが自分の漫画を最高の形で終わらせたように……」


 とまぁ、俺は現代異能学園バトルモノが大好きだ。

 ありないからこそ、そう言う世界に憧れる。


「さて」


 好きな漫画・アニメについての話はこれくらいにしよう。

 多分そろそろ目覚まし時計が鳴る頃だろうし、起きる準備でもするか。

 なんと言うか、目覚ましよりも早く起きた朝ってーのはとても気分がいい。


 さぁ、今日も新たな一日を始めよう。

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