ドラゴンを殺すために必要な最低限の要素が、ここに詰まっている

 剣一本でドラゴンを殺すには、剣一本でドラゴンを殺すだけの英雄が求められる。
 剣千本なければドラゴンを殺せないなら、千人の雑兵を磨り潰せば良い。
 いずれも、それほど難しいことではないのだろう。初めから「ドラゴンを殺すための条件」を満たしている、その前提でドラゴンを殺す。

 そんなものは「毎日野球の練習を続けた高校球児は、野球が上手い」――それと同レベルの、何の不思議もない、至極当然の話だろう。勿論、それは無価値ではない。下手な野球より上手な野球の方が見ていて楽しいし、高校球児がバッティング力増強バットでドラゴンに鉄球を打ち込む、そんな竜退治があっても良い。

 本作の主人公達が属するのは平凡な地方商店街の、喧嘩っ早い草野球チーム《新桜庭ゴブリンズ》だ。大抵の草野球チームにおいて、メンバーの大半に戦闘能力はない。新桜庭ゴブリンズには知能を暴力性に割り振ったり、倫理を生存性に割り振ったりしたメンバーが多い分、一般的な草野球チームよりは戦闘能力が高いが、それでも一般人の枠は出ない。最新鋭の生物兵器が加わっても、それだけではドラゴンは殺せない。余裕など一切ない。
 復讐と生活、そのために遊びを加えず、ドラゴンを殺すための手法を用いて、ドラゴンを殺す。直線的だ。
 そうでなければ殺せないほどドラゴンが強い。ドラゴンを殺そうとしているのは、普通の人間なのだから。それほど野球が強いわけでもない、愚かな会話や振舞いばかりする人間だ。

 人間がドラゴンを殺す物語として、極めて見事な傑作。

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