最終話 一撃必殺の理
かちんかちんと繋がってゆく音が聞こえるようだ。
『
――『一撃必殺の
それがなんなのか、今正しく『構え』に『意』を通す
『絶望』を具現化したような巨大な獣を前にしながら、
己の思った通りだったのだ。
『
まさしくその通りだった。
今、己の鍛え上げた身体の中に流れ込んでくるものを感じて、
これがあってはじめて、『
これを御する為にこそ、あらゆる鍛錬も、あらゆる術理も存在したのだ。
そのために己は明けても暮れても、一心不乱に己の身体を鍛え続けてきたのだ。
今こそ完成する。
己が人生をかけて追いかけ、目指したものに遂に至る。
爺様に報告したいと思った。
社長に聞かせたいと思った。
いっちょ前に虐められている友達を守りたいと思ったクソガキが見た夢は、今ここで結実する。
今、
物理法則を超越する、あらゆる超常現象の根幹を成すものだ。
世界中にあふれるそれを御すものがいれば、文字通りその存在が世界最強である。
本来、生物は生物であるが故に、己の体内で生じた『魔力』しか御することは出来ない。
故にこそ残酷な『才能』の選別があり、己の体内で『魔力』を生じさせられない人間は『魔法』とは無縁の人生を送るしかない。
世界に『魔力』があふれていても、それを扱える術理は存在しないからだ。
その常識を砕くのが『
世界に溢れる『魔力』を取り込み、それを己のものの如く御し、練り上げる
先に、
「リコ姉ちゃん、これって……」
「うん。ショーイさんは世界に存在する『魔力』を自由に操れるみたい。それは『首輪』なんておもちゃ以下になるよね」
『魔力』を持ち、『魔法』の才能を持つ二人であるが故に、今目の前の
世界に溢れる『魔力』を自由に制御することが可能なのであれば、
何も膨大な魔力をその一撃に注ぎ込む必要は無い。
自分には魔力は一切存在せず、己の外に存在する『魔力』を自在に御せるとはどういうことか。
魔力を持たない相手であれば、ほんの少しの魔力を周りから集めて叩き込めば事足りる。
では巨大な魔力を有する相手であればどうするか。
その相手の魔力を奪い、そのまま叩き返してやればいい。
「管理官たちの魔法防壁とか、私達の『首輪』が何の役にも立たなかったはずだよね……それを成立させている『魔力』を根こそぎ奪われたら、どうしようもないもの」
強靭なはずの魔法防壁が薄硝子のように砕かれ、魔力による『
『
殺意を持って
無謬無敵。
一撃必殺。
その嘘偽り無き体現者。
それが今の、
その証拠にすぐ襲い掛かる事をせず、絶対的強者ゆえにただ強大な顎門で噛み砕くだけしかしてこなかった獣が、初めて己に備わった各種スキルを使用している。
それらは無慈悲にも、全て無駄に終わっているのだが。
巨大な顎門から吐き出すブレスも、天候そのものを操るかのような『魔法』も、発動する端から、
『
構えの最も前に存在する左掌底――
そしてその魔力の渦は、引いて構えた右拳骨――
殺気。
殺意。
相手を、いや敵を殺すという絶対の意志。
その意志によって引き起こされるあらゆる行動を、
そして己の殺意を乗せて、
気を静める?
殺気を抑える?
そんな理は、
敵が発する津波のような殺意を御し。
森羅万象――『魔力』を取り込んだ力を、己の殺意に従って振るう。
それが
今対峙している、獣の如き叫びだ。
叩きのめす。
ぶち殺す。
いま己が御している力を全て叩き込んで、跡形も残らないくらいズタズタにしてやる。
叫びを上げているのは己なのか。
取り込んだ力そのものが獣と化しているのか。
解っているのは圧倒的な快感と、脳が痺れそうになる全能感だけだ。
己は強い。
己は無敵だ。
逆らう奴はすべてこの拳で砕いてくれる。
『
馬鹿にするどころか知りもしない、最強を謳う有象無象どもも。
何もかもこの技で――
『一撃必殺! 憧れるよなぁ磐座よう』
――社長が、飽きるほど言ってた言葉だ。
『勝てなくてもいいんス。悔しいですけど、勝てるまで積み上げるだけなんで』
――若い頃に強がった、己の言葉だ。
『おう
――これは爺様の……おじいちゃんに初めて『拳骨の使い方』を教わった時の、言葉だ。
――目が覚めた。
完全に力に呑まれていた。
力そのものは御せていても、それを得た自分の『我』をまるで御せていなかった。
血の気が引いた。
今我にかえれたのは、直前に助けた少年少女の影響があったからだ。
ただ一人でいたのであれば、完全に力に呑まれていただろう。
取り込む『魔力』が強大であればあるほど、その対象が凶悪な
それこそがこの技の最も恐ろしいところだ。
それを律するためにこそ、『
数十年間鍛錬したにもかかわらずだ。
まだまだ自分は未熟だと理解した。
この技を手に入れたからといって、いや手に入れたからこそ、より一層の鍛錬が必要だ。
とくに精神面の。
ここがどこであれ、今目の前の脅威を排除したら己を鍛えよう。
そう決めた。
今は『魔力』の枯れ果てた『地球』では機能し得ないその術理。
それは
もはや逃げることも叶わぬ巨大な獣は、己の生涯で初めて恐怖の吼叫をひしり上げている。
ふと訪れた凪のように、
己を取り戻した
残りの魔力は世界に還す。
要らぬ力を溜め込んでおく必要は無い。
そんな器も無い。
その状態からなんの気負いもなく
『叩き込む』という激しいものではなく、風に散る桜花がふわりと地につくかのように、
それでお仕舞い。
幾重とも知れぬ魔力結界の全ては音もなく砕け散り、悠久の時を生きてきたであろう強大な魔獣の生命をも砕く。
まるではじめから死んでかのように、魔獣はその巨躯を轟音と共に地面に叩きつけた。
外傷はまるでなく、内臓も何一つ傷付いてはいない。
尋常なる勝負。
そういっていいだろう。
――吹っかけてきたのはお前だから、恨んでくれるなよ。
後ろから抱き着いてくる二人の子供を相手にしながら、さてどこで修行を始めようかと
その前に何とか社長に伝える手段がないものかと考えるが、それはもはや無理だろうとも思う。
さすがの
――まずは言葉を覚えて、リコとライに頼るのが一番かな。
『一撃必殺の
だが完成には程遠い。
己はまだまだ己を磨いていかなければならない。
なんだかわけのわからないこの地で、とりあえず二人を保護しながら。
そう思って二人を見ると、大喜びで抱きついてきた二人がまたぞろびっくりした顔をしている。
また何か余計な事をやったかな? と思う
まさか膨大な『魔力』を御し、吸収した己の身体が、肉体的な全盛期である二十歳前後まで若返っていることを、鏡の無いこの場で
『えーっと、なんでおじさんが兄ちゃんになってるの?』
『私に聞かれたってわかるわけ無いでしょう!』
なぜ自分が怒られるのかわからないライは肩をすくめるが、なんで
だけどこれから面白い日々が待ってるような気が、生まれて初めてするライである。
それはきっと、横で真っ赤な顔をしている
まずは兄ちゃんに言葉覚えてもらわないとなーと、先生気取りのライである。
『一撃のショウイとその弟子達』の伝説はここから始まる。
だがそれはまた別のお話し。
Fin
一撃必殺の理 Sin Guilty @SinGuilty
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