あふれる空への愛

愛しても愛しきれない、恐れても恐れたりない、それでも一度行けるのだと知った空への思い。夜間飛行も風立ちぬも、空を描いた小説はどれも好きですが、この小説もまた私の心に深く響いた作品です。まだ序盤ですが、これは傑作と思い、思わず感想を入れてしまいました。

私の祖父は前の戦争で陸軍の飛行機乗りでして、幼い頃に聞いた空の思い出は今でも時々思い出します。飛行機乗りにはどこかセンチメンタリズムに満ちたところがあって、空を語る人からはその深い信念や孤独が伝わってくるものですが、本作はそうした飛行機乗りの特徴を見事に表現していると思います。

また深い知識に裏打ちされた描写も多く、砲撃で砕ける雲や砂漠での着陸のノウハウ、護身の武器やサバイバルの食事、その他の工学に関するシーンも面白く読めました。

さらには、この作品は単に美しい空の描写とそこを駆ける男の思いだけではなく、淡い恋や裏がある相手との駆け引き、そして迫力に満ち、かつ心理戦を組み込んだ空中戦など、活劇に求められる要素も満載です。

この作品は是非にも映像化してほしいです。雲海を駆けるレッドベル、果てしなく広がる砂漠の寂寥、喜怒哀楽に満ちた主人公ラシェットの生き生きとした表情を見てみたいです。100万字オーバーの大作ですが、時間をかけてでも最後まで読みたいですね。
これは傑作です。

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