白い蝶

@Whitefly5

白い蝶

輝る瞳は何を映す


暗い霧に包まれた山道に迷った。辺り一帯は街灯もなければ、月明かりもなく。凹凸の険しい道を歩いていると、一点の光を見つけた。それは人工的なものではなく…しかし、自然的なものでもない、不思議な光だった。

 少し近づいてみると、光の正体は白い蝶であった。ふわりとした、まるで曇りガラスの向こう側にある美しい光は、不定期にまたたいている。強い風になびくろうそくの灯火のように、儚げで、不安になるのだが、獣道で悲鳴を上げている脚は、立ち止まっているおかげか、少し楽になってきた気がしていた。その光源は光を強めて、ついに辺り一帯を明らかにした。蝶が停まっていたのは長き年月を重ねた木の枝で、私がいたのはその幹の元だったと。珍しさと好奇心により、その蝶に手を伸ばすと、まるで懐いているような素振りを見せながら人差し指で羽を休めることを許した。

 出口の分からない中、獣道の中、明かりの少ない中、彼女はとても安心できる要素であった。ぱたぱたと人差し指から羽ばたくと、彼女は少し離れた、別の樹の幹へと案内するように移動した。明かりは彼女からでしかとれないので、当然私はなすがままについていったのであるが、不思議なことに、彼女が通ったあとには懐かしい匂いがしたのだ。少年の時分、夏休みだろうか…田舎へ戻り、畳の気持ち良い、色あせたトタン屋根の下で感じた、あのときの匂いだ。

少々懐かしい気持ちになったので、更に安心感を加速させていった。まるで、彼女は私のことを分かっているかのように、五感を支配して取り込もうとしている、とさえ思ってしまうほどだった。






はらりと ひかるはねを みせつけた


ふわりと なつかしきにおいを かぐわせた


ぱたりと やさしいはおとを ひびかせた


ぱらりと ゆびさきに まいおりた


ごくりと てつのあじが

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