第3話 少女の独り言
夜、寝る前。私はベットの前に三角座りをしていた。私自身早く寝たいし、睡魔もじわじわと頭の中に広がりつつある。だが、
寝れない。
明日楽しみなことがあって寝れないとかそういうんじゃない。目を閉じていても寝れない。眠い。でも、それ以上に涙がこぼれそうだった。腕の中に顔を埋めて、目を閉じる。今まで溜まっていた涙が頬を流れる。止まらない。
つい、嗚咽が漏れる。下でまだ親が起きている。
気づかれたくない。気遣われたくない。
だから私は静かに泣く。口から漏れた嗚咽を押し込めて、ただ目から涙をこぼす。私は腕に力を込めて自分を抱き締めた。虚しい。心はそんなんじゃ埋まらない。むしろ泣く度に心が崩れる気がする。
私は顔をあげ、まだ落ちる涙を拭き(意味はないけど)窓際に行った。窓を開けると、空が見えた。真っ黒。星は見えない。
「むぎゅっ!」
突如、何かが私の顔に突進してきた。いや、ぶつかってきた?早すぎてよくわからなかった。しばらく私の顔に張り付いていたが、へろへろと手の中に落ちてきた。落ちてきた何かは、熊っぽかった。
決して熊ではないのだが、強いて言うならデフォルメされた熊。
「…あのー生きてる?」
つついていると、起き上がり私の手を噛み始めた。驚いてギュッと目をつむったが、全く痛くないことに気がついた。
「離してー…」
だが、離す気配のない熊…熊?…熊。私は諦めて、しばらくそのままにすることにした。
暇になった私は、なんとなく昔を思い出すことにした。
****
「おはよう!」
学校の階段ですれちがった友達に、私は笑って挨拶をする。
でも、友達は私をチラリと見ると気まずそうにして、行ってしまった。私は首をかしげる。
お腹でもいたいのかな
呑気にそんなことを考えながら、私は教室のドアを開ける。皆一斉にこっちを見た。
「え、何々?私、なんか変かな。」
戸惑いながら私は皆に聞く。
「机をみたら分かるんじゃない?」
ハッと振り向く。でも、そこには誰もいなかった。おかしい。明らかに今、誰かが私に話しかけたはず。
机に向かいながら、私はかんがえた。だが、机を見た瞬間私の考えは吹っ飛んだ。いや、考える必要性がなくなった。
バカ、アホ、学校来るな
幼稚だが、私の心を切り裂くには十分な言葉が机の上に広がっていた。マジックでかかれたものや、彫刻刀で掘られたものまである。
私は助けを求め周りを見るが、依然とクラスメイト達は私を眺めるだけ。眺めるだけでなく、ニヤニヤと汚い笑みを思わずこぼすものもいた。
ドンッと、後ろから衝撃を受ける。そのまま私は前のめりに倒れた。少しだけ手の平と膝を擦りむいてしまい、そこがひりひりといたむ。
なぜ私は倒れたのか原因を探すと、後ろに一際口を歪ませ、一番汚らしい笑顔で佇む女の子がいた。
「いらない、いらない、いらない子。いらないおもちゃは捨てましょう___」
節をつけ、歌うように話す。クルクル回り、何回か歌らしきものを繰り返すと、パンっと手をたたいた。
「あんたさぁ、なんかきにいらないんだよねー」
「は…?」
「なんだろう、なんかもうねぇ顔も性格も服も頭もあんたの存在も、全部きにいらないの。もう飽きちゃったの。いらないの。」
にこやかに、残酷に彼女は続ける。
「さて!ではいらないあんたに質問です。飽きたおもちゃやいらないゴミはどうする?」
知らないうちに目を見開いていたようだ。目が乾いた。それでも瞬きできずに、私は彼女を凝視する。唾が口の中に溢れ、その唾をゴクッと飲む。
「んー、残念!時間切れでーす!じゃあ正解発表!正解はー___」
「うっ…ゴホッ!!うぐ…!」
私は思わず嘔吐いた。だが、彼女の言葉の先を思い出さずにすんだことに、私は少しだけ安心する。
私は弱い。心が弱い。今まで友達に囲まれ、両親とも良好な仲を築き、大きな事件や災害にも巻き込まれないで、今までのうのうと生きてきた。だからか、友達と思っていた子からの裏切りに私は耐えられず、心は圧力で粉々に砕け、学校に、行けなくなった。
所謂不登校というものだ。親は、気をつかってか無理やり学校に行かせる真似はしなかった。私は一日中家にいた。たまに、親が出払っているときにリビングに出て、ソファーに座りぼうっとする。
そして夜、どうにも悲しくなり、涙が溢れこぼれる。
嘔吐いたからだろう。目から生理的な涙が出た。
気づくと、クマは寝ていた。呑気なものだと思いつつ、クマを窓際にそっと置く。寒いかもしれないと考え、小さなタオルをかけておいた。そのまま起こさぬよう窓を閉じる。
「…眠ろう」
私はベッドにはいり、目を閉じる。すぐに睡魔が襲ってきた。私は先程まで寝れなかったのが嘘みたいに、意識を手放した。
…ピピピピピピ…
******
「ハッ!!…なんか…リアルな夢を見てたような…」
ハルは汗だくで目覚めた。数回深呼吸をし、ピピピピピと鳴り響くアラームを止める。
「…」
学校、行かなきゃ
顔を洗い、制服に袖を通し、朝ご飯を食べて、いってきますと声をかけた後、ドアをあけ、学校へ向かう。段々と自分とおなじ制服の生徒が増えてくる。
私は下を向いて、目立たないように歩く。校門を抜け、教室のドアに手をかける。しばらくあけるのを躊躇したが、意を決しドアをあける。
ドサドサドサッ
入った瞬間、何かが落ちる音が聞こえた。
「あ、ハルー!遅いよー?」
「ご、ごめん。」
どうやら、友人がゴミ箱を逆さにして、ゴミを落としたようだった。ゴミ箱の下には、ゴミだらけの女生徒がスカートを握りしめ震えている。
「え?なに震えてんの?あっ、もしかして泣いちゃいそうなの!?ぶはっ、まじかっ!」
友人は楽しそうにケタケタ笑っていた。女生徒が顔を上げ、こちらを見る。目が、助けを求め潤み、揺れていた。
「ほんっと弱虫できもちわるーい。ハルもそう思うでしょ?」
私はシャツの裾を握り、女生徒と友人を交互にみる。
女生徒の目は変わらず潤んでいた。友人は、私と目が合うと、スッと目を細めた。
私は下を向き、目を閉じ固まる。しばらくして、女生徒の視線をふりきり、言うのだ。
「…うん。弱虫だし、泣き虫だし。気持ち悪いな。一緒の空間にいるのも耐え難いよ。」
あぁ、弱くてごめんなさい。
※この物語はフィクションです。いじめはしてはいけないことです。いじめられたら相談するか、学校から逃げるのも手段の一つです。いじめをみて見ぬ振りをしないでください。いじめを、できる限り無くしましょう。
【短編集】~ちょっと変な話~ 魚紙奈夏乃 @yakizakana
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