第14話 エピローグ 博士と周人


◇周人と博士


 周人がドアを開けたとたん、バット胸に飛び込んできた者がいた。

 それを見て、文也が口笛を吹き、さくらがにこりと笑った。


 周人の腕に中にいるのは、例の女性、博士だ。その博士は顔をあげた。自分を抱きとめたのが周人だと認めると、安心してまた抱きついた。

「入りなさい。これから説明がある」

 部長の声が聞こえる。

 みんなどやどやと中に入る。周人の傍を通り過ぎる時さくらが小声で「頬がひとはけ赤いわよ」とささやいた。おかげで周人は、二刷け分赤くなった。


 ちらっと文也を見るとかすかな目線で合図を出している。もう文也との間で互いの意向を間違えることはない。疑問に思いながらも、それでも文也の無言の指示に従って、周人は博士を片手で抱きかかえたまま、部屋に入っていった。そうしろということだと文也の眼は言っていた。博士は逆らわずに、周人と一緒に戻る。

 

 その姿を、先ほど合った部長が満足げに見ている。メンバーの一人と中心事物の博士が親しく抱き合う、いやぶつかって思わず抱きとめた状態、そしてそのまま部屋に入って来る。こんな状態を許すなんて、よほどこれまでが荒立っていたのか。

「よし、確かに君は博士の扱いに慣れているようだ」


 そういう言い方をするとは。

普通、メンバー同士の恋愛御法度とか、対象へ手を出すなとか、禁止事項があるだろうに。

 周人は、今度は部長の目線の指示に従って、博士を椅子に座らせた。博士は周人の誘導に素直に従っている。

 部長は博士に向かって言った。

「矢倉周人クンはご存知でしょう。では他のメンバーを紹介します」

「知ってる。書類、見た」

ぽつりと博士が言う。


 久しぶりに声を聞いて、周人は胸に不思議な痛みを感じた。なぜだか彼女の微妙な感情が分かるような気がした。

 反射的に周人は、自分で椅子を持ってきて彼女の傍に脇に座った。首を回して周人を見る彼女の顔がわずかに緩んだ。

「ぼくの友だちなんだよ。みんな」

 文也が片方の眉をあげるのが見えた。きっと僕という言葉を使ったことに対してだ。しかたないだろう。お前だって女の子の前ではイイカッコするだろう。


「友だち?」

「一緒に訓練を受けた仲間だ。」

 周人にそう教えられた後に皆をながめる博士の顔は、今度は違った。

「文也さん。さくらさん。白秋さん。鬼頭さん。吹浦さん」

 一人ひとり、頭の中のデータと素早く認証しながらだろうか。だが今度はそのデータに、頭に周人の友人という項目が加わたったようだ。

「表紙の色が青に変わったわ」

 

 不思議なことに周人には即座に分かった。部長と悠一課長は意味が分からないという顔で周人のほうを伺った。周人は通訳した。

「俺の友人だということで、頭の中に入れているプロファイリングの分別用の色が変化したんです。……たぶん」 


 たぶんそうだろう。確信があった。一週間も毎日30分ほど散歩しながら話をしてたんだ。いや、話をした瞬間から彼女の言うことが理解できていた。

「あ、あの。私も友人ということで書類の中に入れてくれないでしょうか。その方が仕事やりやすいし。私、住谷悠一課長です」

 悠一課長が、おそるおそる話しかけた。

「では課長さんとして入れます。このチームは互いに男性は名前で女性は名字で呼び合うようですから」


 そう言えばそうだ。博士にそう言われて周人は始めて気がついた。文也以外のメンバーも皆同じように小さな発見をした顔をしている。

「それで結構です。何分私も始めてお目にかかるものですから。お名前を伺ってよろしいですか」

 博士は悠一課長をまじまじと見返したままだ。どうやら何かのきっかけで長考に入ったらしく、答えない。

 そこで部長が代わりに言った。

「矢倉瞳です」

「やくら~?」

 何名かが実際に声をだした。


 お前たちいつ結婚したんだ、と小さな声で文也が冗談を言った。

 しかし全員に聞こえたらしく部長は、

「博士の名字も矢倉というんだ。紛らわしいので瞳博士と呼ぶ、で、矢倉周人君のほうを名前で呼ぶことにしよう」

 同じ名字と知ってびっくりした周人だが。すでに口の中で「瞳、ひとみ」と名前を転がしていた。


 そこへ、号令がかかった。


 「矢倉瞳、住谷悠一、円城寺文也、矢倉周人、大内さくら、萩原白秋、鬼頭蓉子、吹浦サトコ。かりん隊メンバーとして、本日、ここに任ずる」


 こうして、かりん隊の全員がずらりと並んだ。


 歴史が始まろうとしてた。

 

 

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旭日のかりん隊 ~異現代歴史小説~ 天道安南 @tendou

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