エピローグ
一面に、色とりどりの花が咲いていた。
こんない美しい場所が、この世の中にあるのだろうか。
「ミユ」
懐かしい声が、後ろから聞こえた。
……私が、この声の主を間違えるはずはなかった。ずっと、ずっと聞きたかったこの声を。
「タツキ……!」
振り向くとそこには、こっちを向いて優しく微笑んでいるタツキが立っていた。
――そうか、ここはもう、きっとこの世ではないんだ。だからこんなに世界は美しいんだ。
「会いたかった……!」
タツキの所まで走って、広げていた腕に飛び込んだ。
最近はもう身体が動かなかったのに、まるで若い頃のように、羽根が生えたみたいに身体が軽かった。
「あれ?手紙に書いてある一言目と違うんじゃない?」
いたずらっこのような微笑みを、私に向ける。
「……バカ。迎えに来るの、遅いんじゃない?もう私……シワシワのおばあちゃんだよ」
「ミユはきれいだよ」
タツキがそう言って私の額にキスを落とす。すると、自分の身体に刻み込まれていた皺がすっとなくなり、タツキと別れたあの日のような若かったころの身体に戻った。
「……置いて逝って、ごめんな」
タツキは、私の頭をそう言って撫でた。
その言葉を聞いて、こらえていたものが一気にあふれ出た。
「私ね……頑張ったよ。頑張ってあなたの子ども、育てたの。タツキから一文字とって、名前は達文。今はね、ちゃんとした仕事にもついて、結婚して、孫までいるんだから!」
「うん。ずっと見てたよ。ずっとずっと、ミユが一人で時には戦って、苦労して育ててるの、ずっと見てた」
「見ててくれてたんだ」
「俺たちの子ども、立派に育ててくれてありがとう」
ずっと抱かれたかった腕に、強く強く抱きしめられる。私も、それに返事をするように、タツキの身体をぎゅっと抱きしめた。
「ミユの鞄にも……手紙、たくさん入ってるね」
「え?」
タツキがそう言うので、見てみると、いつの間にか私の肩から小さな鞄が下がっていて、その中からたくさんの手紙があふれていた。
「あ……これ!」
達文に、死ぬときに棺桶に入れてくれと頼んでいたもの。
「俺の、手紙……?」
何度も読み返して、ぼろぼろになったあの時の六通の手紙。私の宝物の一つだった。
「……実は、俺も持ってるよ。ミユがくれた手紙」
そう言って、懐から取り出したのは、あの時にしたためた私からの一通の手紙。
「届いてたんだね」
「うん。届いてたよ」
私と彼の、合わせて七通の手紙は……私たちを繋いでくれていた。
「愛してるよ、タツキ」
「俺も愛してる、ミユ」
私と彼の七通の手紙 ‐完‐
私と彼の七通の手紙 天野雫 @monasu
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