アイスダンスがどういうものかが主人公の成長とともに描かれる

フィギュアスケートの中でもテレビなどで取り上げられることの少ないアイスダンスを題材とした作品です。

フィギュアスケートを滑るということそのものがどういう事なのか、その中でもアイスダンスというのはどういう競技であるのか、といった点がたいへん良く描かれています。
特に、男性側のリードが大切とされるアイスダンスにおいて、いかに男性側が苦労をするか、高いスケーティングやフォローが求められるかがとてもリアルに描かれていて、感銘を受けました。
実際、アイスダンスを鑑賞することが好きな私は、うんうんと頷けたり、なるほどと納得したりすることが多かったです。

しかし、たとえアイスダンスにもともと興味がなかったとしても、十分に楽しめます。
むしろ、高い文章力、構成力に支えられているため、本来一気に読んだら知恵熱が出てしまうほど複雑なものを描いているのにそのストレスを感じさせず、なおかつその複雑なアイスダンスについての記述が一つのエンタメとして楽しめるものに仕上がっています。

主人公やパートナーとなる陽向さん、コーチなど、キャラクターも生き生きと、目の前にいても不思議ではないくらいに描かれていて、親しみを覚えます。
特に主人公の嫉妬や上達したいという思い、でもどこかでがむしゃらになり切れない様子など大変リアルに描かれていて、しかもそれがただの個性に終わらずに終盤でしっかりと回収されて、スケートを通して彼が成長したことがはっきりと伝わってきます。
そのために、アイスダンスという競技を紹介するだけでなく、小説としての面白みも間違いなく備えています。

素晴らしい作品でした。

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