「トート、またの名は死」に恋している。②

クレーム対応係りの仕事へのストレスとTとの関係に極度のストレスを感じたわたしは大量の薬を飲んだ。

少し前から心療内科で薬を処方されていたのだけど、睡眠薬は飲んでしまうと翌朝起きれないので、あまり飲んでおらず、大量に保管してあったのだ。

正直に言うと突然自殺を思い立ったわけではなく、そういうことをやろうと思えばできるという状況はちょっとした心の逃げ道としてあった。

だからこそ、病院で睡眠薬はいりませんとは言わなかったし、捨てずにとっておいた。


もやのかかったような記憶の中で誰かに名前を聞かれた。

わたしは3日ほど眠り続けていたらしい。

白雪姫でもいばら姫でもなく、おむつをされた体重100キロ超女子だ。

そういう患者は受け入れてくれる病院が限られるらしく、いつも通っている総合病院では拒否られたらしい。

距離的には近い病院ではあったけれど費用の高い個室に入れられた。

運び込まれ、すぐに看護師さんがわたしに名前を言えるか試したらしい。

その時、呂律が回らない状態でなんとか名前を言ったので、「脳に障害はないですね」と言われ、母は泣いたらしい。

でも、意識が戻ったわたしに母は怒った。父とは口を利かなかった気がする。父が見舞いに来たかも覚えてない。姉は笑い話にした。

そして、誰もわたしの本当の気持ちは聞いてくれなかった。

母は今現在もわたしがTと別れたくないのに母が別れなさいと怒鳴ったから悩んで自殺しようとしたと思っている。


けれど、本当は違う。

Tと別れなくては幸せになれないとぼんやりと理解したからだ。

Tのいない人生、一生孤独で誰にも選ばれず、未来につながる子孫も残すことができない自分の将来を憂いたからだ。

でも、みんな蓋をした。

怒り顔で。しかめっ面で。笑顔で。

そこに絶望など存在しないかのように。

「聞きたくない」とはっきり言われた。

愛情がないわけではなくて、愛情が深いからこそ、

「あんたが死んだら、お父さんもお母さんも生きてはいられないよ」と言った母に、わたし自身ももうこの話はできない、そう悟った。

わたしがこの絶望について言葉を発したら、その毒でみんなが死ぬ。

それからは常に死にたい想いは誰にも言わず、そっと心に秘めている。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

卑肉 銀河ひろ @satohiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ