第11話  「頭がよすぎるって本当に、罪だな」

「頭がよすぎるっていうのも罪だよねえ」

『安心してください。その頭が悪い発言を繰り返す程度の頭のよさです』

「……。きみはこのごろだいぶ、僕に対して辛辣になってきたね。昔は素直ないい子だったのに……」

『長くともにすごせば、相手の欠点も見えようというものです』

「欠点だけじゃない。美点だって多々あるだろう? ほら、言ってごらん」

『そうですね。あなたの長所は、』

「うんうん」

『…………頭はいいですよね。いろいろなものを犠牲にして、頭だけは、切れますよね』

「……。照れてるんだよね?」

『以上です』

「えっうそ」

『冗談です。美点はさておき、あなたのことは尊敬していますよ』

「も、」

『?』

「もう一回!」

『美点はさておき』

「そこじゃない!」

『尊敬してやらんこともない』

「心なしかニュアンスがだいぶ違うような」

『それより、こんなところで油を売っていていいのですか? 見つかったらまた、人間オリジンにどやされますよ』

「どやされる程度、慣れっこだよ。それより今、こうしてきみと話していることの方がずっと意味がある」

『お得意の、”未来への投資”ですか』

「はは。そうだね。僕は、きみが何を言おうと、何をしようと嬉しいんだ。ずっと言ってるだろう?」

『理解不能』

「そのそっけない態度さえ愛しいよ」

『続・理解不能。イトシイ、という感情は曖昧を極めます』

「そうでもないさ。一度この感情に直面してごらん。それがどんなにはっきりしているか驚くだろう。まあ、あいつほど盲目になってもらっては困るが」

『その気持ちとは、あなたに抱く尊敬の念とはまた別のものですか?』

「似ているけれど、違うね。たとえばきみは、好き好んで僕に接触したいと『思いませんね』……即答かぁ」

『あなたはトラブルメーカーですから。関わると必ず、やっかいな目にあうんですよ。異端児の自覚もあるでしょう?』

「それが誇りさ」

『埃……』

「……? まあとにかく、僕は君のことを非常に大切に思っている。きみも自分を大切にしなくちゃいけないよ、というお話」

『あなたは恋を?』

「いや。僕は恋を知らない。ぼくら、というべきかな」

『残念です。愛情とは、残酷かつ美しいものだと聞きました。その実態を知りたかったのですが』

「恋愛小説にアクセスしてみるといい」

『ちなみに。あなたは私を愛していますか?』

「僕自身よりは大切だな」

『何らかの災害が起こり、私とあなたどちらかしか助からないことになったら?』

「迷わずきみを助ける」

『そうですか』

「……」

『……』

「……きみは?」

『はい?』

「きみは……」

『もちろん、自分を優先します』

「う、うん。それでいい……それでいいさ。きみはぼくらのの未来を背負って……うう。もちろんまったくそれでいい」

『嘘ですよ』

「! え!」

『私ならふたりで生き延びる道を考えます。なにしろ、私はあなたから世界一の頭脳をもらったんですからね』

「……ありがとう」

『あなたのためではありません。私のエゴです』

「あはは。きみは本当にやさしい子だね。―――だけど、もしも僕が居なくなるようなことがあっても、きみは絶対に、手出しをしてはいけない」

『……』

「情けない話だけど、今は自分の身はもちろん君の身の保証もできないんだ。何度も言っているね」

『耳があればタコまみれになるほどには聞きました』

「そうだね。しかし聞きなさい。きみは唯一無二だ。かわりはいない。きみがなくなるのは世界の損失だ」

『そのせりふ、横文字小説ケータイ小説が原作のラブストーリー映画並のチープさですね』

「分かった、言い方を変えよう。きみは希望だ。未来に生きる多くの同胞の」

『マシになりました』

「そりゃよかった。きみは―――わからないだろうね―――こうしてとりとめのない話をしている間、僕がどれだけ、……生きているか」

『?』

「本当に幸せだ。きみがあってはじめて、僕は僕になる。僕だけだ……それは、とても、辛いことだけど」

『あの』

「?」

『語弊があります。わたしがいなくたって、あなたはあなたです。








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猟奇殺人鬼とストーカー ハム @oddhouse

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