第24話

 もう少し人の少ないとこで待ち合わせした方が良かったかも……。

 明らかに周りと比べると浮いてしまっていることに、駅に着いてから気づいた。ちらちらと道行く人達がこちらを見ていて居心地が悪い。

「いちいち時間確認するのにスマホ出すの面倒くさいだろ。これやるから着けとけ。」

 と、車から降ろしてもらった時に投げられたブレスレットみたいな腕時計を見る。

 無駄に可愛いのが腹立つ。

 11時を少し過ぎた頃、一台の車がわたしの前で止まった。助手席のドアが開いて、男性が顔を出した。

「えーと……アメノキさん、かな。」

 この人こんな顔だったっけ……?

 思わず訝しげな顔をしてしまったわたしに、男性は慌てて、

「"トウカ"でぇす。こぉんな格好でごめんねぇ。」

 と作ったようなおネェ口調になる。

「いえ、失礼しました。女性の印象が強かったので……。あ、今回は誘っていただいて、ありがとうございます。」

 "トウカ"というのは源氏名みたいなものらしい。目の前の本人が言ってたし。

 いそいそと、先ほど乗っていた車よりはやや固い助手席へ座る。というか藤堂さんの車の座席が柔らかすぎるだけなんだけど。

 さてさて……本人とは実は1週間ぶりの再会だが、この人がわたし達の目当ての人かはわからず仕舞い。メールでもはぐらかされてばかりでほとんど情報は掴めなかった。

 さぁ……どうするか。動き出した車の中で、会話の糸口を探す。

「このパーティの招待状をくれたトウカさんのお友達には、ほんとに感謝しないといけないですね。」

 ふふっ、と綺麗に笑って見せる。

 クルスさん直伝の笑顔をくらえ!流石に惚けてはくれないだろうけど……。

 案の定あまり効果は無かったようで、そもそも運転中にこっちを向くわけがないし。

「…………。」

 完全に笑顔の無駄撃ちだった。

 やばい。なんか意気消沈じゃないけど乗り気でもない気分になってきたぞ。

 気持ちが朝からジェットコースター並みの高低を繰り返してる。でもパーティ行きたい。

「ごめんね沙希ちゃん。あたし嘘ついてたの。この招待状、もらったわけじゃなくて配る分だったの。」

「へぇーそうなんですかー。」

 ……うん!?ちょっと待って!今大事なこと言った!!?

 気分に負けて流しちゃったけど、

「うーん……沙希ちゃんには言おうかどうしようか迷ってたんだけど、言っちゃっても良いかなって。」

 それはもうほぼ確信と言っても良いようなもので、なのに打つ手も証拠も根拠もない曖昧で宙ぶらりんだった真実。

「あたし、金剛株式会社の顧問をしている、現コンゴウグループ社長の息子ですっ。」

 うふっ。てハートマーク付きの唐突な暴露。

 なるほど、人は驚きすぎると頭を殴られたみたいになるんだね。

「あれ?あんまり驚いてない?」

 依頼について何も知らなかったら、もっと素直に驚けたのかも。

「いえ……、びっくりしてます。色々と。」

 なんで女装してるのかとか。

 なんで行方不明中なのかとか。

 どこからこの招待状を持ってきたのかとか……。

 そこではたと思う。ずっと家に帰っていない人間が、どうやって家の物を取って来れるんだろう……?

 株主総会のおまけのパーティ。それなら、どこの誰に配るか名簿があるはずだし、行方不明……いや、行方知れずと言った方が良いのか、になったのは半年前で……そんな前から招待状って準備してるもんなの?いやでも、そう考えるしかないよね……。

「あの、ごめんね。戸惑っちゃうよね!忘れて忘れて!」

 悶々としているのを察して、トウカさんはこう言ってくれたけど、残念ながらたぶん違うことで悶々としてます。

「あはは……でもトウカさんはトウカさんだし、わたしは気にしません。」

 そっか、ありがと。と小さな声が聞こえた。

 会場に着くまで細々と、トウカさんから色んなことを聞いた。母親が早くに亡くなっていること、中学一年生に初めて女装したこと、その姿に安心を覚えたこと、それ以来女装姿しか見せたことがないこと……。

 いずれ会社を継ぐとしても、そうでないとしても大企業グループの社長の息子という立場に、徐々に心が疲弊していったのだろう。その逃げ道が女装だった、きっとそれだけなんだろうけど、わたしにはその重さがイマイチ理解できていなかった。

 見ている世界が違いすぎて、かかる重さは想像できない。もどかしい……。

 なぜか、「便利屋」にいるあの2人を思い出して、胸がぎゅっとなった。

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青い円盤に 玻璃Si @harishi

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