エピローグ

 その後、玄十郎となづきがどうなったかを知る者はない。

 ただ、知られているのは、小駄良才平が宗門橋から酒樽と転落した晩、流されていく彼の歌声が一晩中聞こえていたということだけである。

 街の人々は、夜が明けてその声が聞こえなくなるまで、その美声に聞き惚れていたという。 

 そして、今。

 城下町はすっかり観光化され、道もレンガで美しく覆われている。

 川沿いの土手はコンクリートで頑丈に固められた。

 路線バスは街の外周に整備された環状バイパスを走っている。

 少し前までは狭い道を無理やり走る路線バスの屋根を小料理屋の二階から眺めることができたものだが……。

 それでも夏の夜にはまだ、この一節が歌われるのを聞くことができる。


  心中したげな宗門橋で 小駄良才平と 酒樽と

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酒樽心中 兵藤晴佳 @hyoudo

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